「同棲するにあたって」
『シェアハウスじゃダメなんですか』
「うるさいな。追い出すよ」


横暴だ……!


元々家具は備え付けだったワンルーム。参考書や着替えを幸村さんの部屋に運んで、マットレスやラグは処分した。
半年間お世話になりました。
明日は役所や大学に転居届け出さなきゃ。


「家事全般は君に任せる。きっちりやるんだよ」


と言っても、リビングはルンバが動き回っているから毎日手入れするほどでもないし、トイレとリビング以外の部屋を週一掃除するくらいで、毎日することは風呂と台所くらいだろう。
洗濯物乾燥機があるし、スチームアイロンもある。食洗機もあるし、一人暮らしより楽な暮らしができる。

立ち入り禁止なのは幸村さんのお部屋と書斎。それ以外は共用。でも、バルコニーだけは幸村さんが管理するから触らないでくれとのこと。


「あーこれで楽ができる」
『わたしからすればもう随分楽してるように見えますけど』
「家事を教えてこられなかった男としてはこれでもめんどうなの」


幸村さんのキッチン。最低限な調理器具しかないのに、カトラリーや食器が多いのは何でだろう。
その中にわたしのマグカップとお箸を置かせてもらって、引っ越し完了。


「名」
『へ?』
「一緒に住むのに苗字で呼び合うのもと思って」


なんだその俺のことも名前で呼べよって眼差しは。

幸村さんがおいくつかは知らない。けど、わたしよりも年上なのだろう。それに恋人でも何でもなく、管理人さんだから挨拶を交わす程度の仲。
一緒に住むとはいえ、わたしの苗字が幸村になるわけではないのだ。

黙っているとだんだん幸村さんは苛立ち始めたのか、より威圧感を放ってきて怖い。
そうですね。雨風と貞操は幸村さんに護られるんですよね。


『精市さん』
「よし」


ぐりぐりと頭を撫でられた。成人の男女がすることだろうか。


「あ、バイト先と連絡先どこかに残しといて。大学は立海だったよね?」
『わかりました。あの、幸村さんってお仕事何されてるんですか?』
「……」
『……』


あっ、恋人だったら幸村さんめんどくさいタイプだ。
精市さんと言い直すと、在宅でデザイナーをやっているそうだ。いいなぁ、お家でお仕事。


『精市さんのお好きな食べ物はありますか?』
「何でも食べるよ。強いて言うなら焼き魚が好きだよ」


焼き魚かぁ。一人暮らし始めてから手間で食べてなかったなぁ。二人なら面倒には変わらないけど、どうせ焼き網が汚れるならたまにはいいかな。揚げ物もいいかも。煮炊きものもできるかも。
二人ってだけで料理のレパートリー広がるなぁ。


『味も見た目も保証しないですけど、料理頑張りますね!』
「火事だけはやめてね。IHだけど」


白い目を向ける精市さんを他所に、わたし、頑張ります!