「名はもうお風呂入って寝れば?明日も大学だろう?」
『そうさせてもらいます』
1ケースもあった350缶ビールが残り2、3本になり、3キロの肉も唐揚げも一リットルパックのりんごゼリーも業務用のレモンシャーベットも無くなった。恐ろしい。
柳生さんやジャッカルさんや丸井さんのお陰でそれなりにお肉は食べられたし、仁王さんに苦手だから野菜を押し付けられお腹いっぱいになった。
初めは緊張してお酒なんて飲む気になれなかったし、楽しい雰囲気に絆され飲みすぎては講義に響くので、空気に酔ったということにしておこう。
髪の匂いを嗅げば、煙の臭いが染み付いて煙たい。
片付けは俺たちがやっておくよとのことで、お言葉に甘えて着替えを取りに部屋へ戻る。
最初はお風呂のすりガラスの向こうに男性がいるってだけで嫌だったけれど、数日過ごせば彼にその気は全くないと悲しいことに気付き、恥じらいもなく平気でシャワーを浴びる。それは男が増えのようと、もはやあまり関係がない。
『えっ!?』
何気なく部屋の電気を着ければ、騒ぎ倒していた切原さんと丸井さんと仁王さんがわたしの部屋で寝ている。
丸井さんと仁王さんはベッドで寝ているけど、蹴り出されたのか切原さんは床で大の字で寝ている。
『精市さーん』
「何。風呂の入り方も忘れたの?一緒に入る?」
『精市さんってお酒が入ると饒舌ですよね。そうじゃなくて、部屋で切原さんたちが寝てるんですけど』
「婦女子の部屋に勝手に入るなど、断じて許さん」
精市さんの冗談のあたりから、お酒か何か知らないけど顔が赤かった真田さんが、わたしに断りを入れてから部屋へ向かっていった。その背中に大声は出すなよと柳さんが釘を刺していた。
「あそこの部屋に泊めてたからね。仕方ないよ」
『それなら仕方ないですね。……すごい音ですね』
「弦一郎の張り手は相変わらずだな」
「もう10年ってところですかね。変わりませんね」
和やかに笑えるほど彼らには日常なのだろうか。
あれだけ体格が良くて手の大きい真田さんのビンタは痛いを通り越した、内出血して腫れてなんか熱いって感じなのだろうか。
各自頬を腫らせてリビングに重い身体を引きずりながら4人が戻ってきた。
3人共、わたしの前にやってきて頭を下げた。なんだか先生に悪戯をして怒られた中学生のようでおかしかった。
たまに店で騒ぎすぎた大学生も店長にこんな風に怒られてるなとも、頭の隅に思いながら、氷嚢を作って差し出した。
「幸村ぶちょー、この子いい子」
「気安く触るなよ。痴漢とセクハラと変わらないよ」
3人に揉みくちゃに撫で回され、精市さんに襟を引っ張られ手から抜け出せたけど首が絞まって死ぬかと思った。
精市さんも力持ちだよね。真田さんに引けを取らず。意外と体格いいし。
ぐちゃぐちゃになった髪の毛を梳かすように今度は精市さんに撫でられた。お風呂に入る前にだからあんまり触らないでくださーい。
「結局、幸村と姓の関係ってなんだ?」
ジャッカルさんの一言により再び話題に上がる精市さんとの関係性。これを語るには大人として恥ずかしい部分を今日初めましての皆さんに話すのはとても勇気がいる。
「可哀想な大学生とか言っとったのぉ」
「家賃滞納して管理人に放り出された、可哀想な大学生。親にも頼れず、無一文で体を売るしかないときに俺が拾ってあげたの。ね〜!」
プニプニと頬を指で突かれるが、確実に爪を立てて、強めに突いてきて痛い。人助けした良い人って言いながら、ガッツリ怨み篭ってるじゃないですか。わたしが100%悪いんだけどさぁ!
皆さんから受ける憐れみのこもった視線がすごくつらい。
特に真田さんの顔が怖い。
「たわけが。金の管理もできん上に、男の家に転がり込む奴がおるか」
振りかざした手に先ほどの乾いた音を思い出す。容赦も遠慮も知らないあの音が加減も知らず降りかかるのだろうか。
強く目を瞑り、歯を食いしばった。が、わたしの頬に触れることなく、だけど耳元で、いくらか弱い力で乾いた音がした。
目を開ければ、真田さんの手を精市さんの手の甲が制していた。
庇ってくれたんだよね……?精市さんは真田さんに首を左右に振った。
「……いつもの調子で手を上げたことは謝ろう。怖い思いをさせた。すまない」
『叱ってくださりありがとうございます。未熟なせいで起こった問題なので』
「そうそう。このバカのお陰で家事とか丸投げできるからいいよ。誰にも貸さないけど」
うえーん。精市さんにこき使われる〜。