『今更、真田にすっぴんでもいいよね……?』


青空を見上げる露天風呂は最高の気分だし、温度もちょうどいいし、美肌効果のあるトロトロの温泉で最高だった。
桜の浴衣を着て、鏡の前に立ってみて、自分がすっぴんであることが気になった。

真田とは中学からの同級生だし、一番ブスな時期のすっぴんを見られてるし、今でもたまにすっぴんの時に顔を合わせちゃうけど……せっかくだから可愛い姿を見てほしい。
ファンデと口紅だけ……究極の薄化粧で戻ろう。


「長湯だったな」
『うん。気持ちよかった〜!』


胡座をかいて新聞を読む真田の隣に寝転がった。たっぷりのい草の匂いが肺に入る。

みっともないとでも言いかけた口が開いて閉じて、片手でわたしの襟を正した。


『ねぇ、真田。なんでわたしを連れてきてくれたの?家族でも、幸村と柳でもよかったじゃない?』


再び新聞に視線を戻した真田に問いかけた。すると、キュッと顔が険しくなった。
答えは返ってこず、だんまりの無視かぁと、真田に背を向けるように寝返りを打った。


「跡部がお前と一緒と条件で寄越したんだ」
『え?』


「跡部聞いてくれよ。姓と付き合って一年経つのに真田ってば指一本触れないの。どう思う?」
「幸村!手ぐらい繋ぐわ!」
「そのくらい俺たちの年齢のお付き合いでは日常。セックスもしてあげなよ」
「な、な!俺たちにはまだ早い!」
「あーん?そういうことか。いいぜ、とっておきの旅館を用意してやるよ」
「いらん!」
「付き合って一年の祝いだ。楽しんできな!」
「絶対に姓と一線越えるんだよ」
「ぐ……お前ら!」


『真田?』


相変わらずのしかめ面で1ページも進んでない。そんなに気に触る記事があったのだろうか。


『ねぇ、真田』


上体を起こしてピクリとも動かない真田の顔を覗き込む。
わたしの肩に触れた新聞の乾いた音に真田は我に返った。
いつも険しくつり上がった目が大きく見開かれ、顔を手で押し返された。


『真田、なんだか変〜。はしゃいでる?』
「はしゃいでなど……!……んん、姓、そこに直れ」
『はーい』


真田に言われるがままに、彼の目の前に正座をした。
彼も新聞を畳んで同じく正座をして姿勢を正した。
まっすぐ背を伸ばして凛として勇ましい姿。少し改まった空気に余計な事を考えてると怒られてしまいそうだ。


「曖昧なことは好かん。姓、男女で旅行することはどんなことかわかるか」
『何となくわかるよ。いつかはって思ってたし』
「そうか」


真田の手が少し濡れたままのわたしの髪を梳いた。
耳を掠めた真田の手が少し湿っていて、彼も緊張していたのが伝わってきて、どうしようもなく彼が愛しく思えた。
騒がれるも承知で彼に飛びつきたくなった。
真田の目を見ると、彼もむず痒そうにしていた。


「お食事の時間ですが、ご準備させていただいてもよろしいでしょうか?」


朗々とした女将さんの声が戸の向こうから聞こえてきた。

お預けみたいだね。と、真田にはにかむと、頭に添えられたままの手に力が入った。


「フン。この程度で間抜けな顔をしおって。心の準備をしておけ」
『ば、ばかー!』


く、悔しい。壊された雰囲気の中、不意を突かれて初めて真田とキスをしてしまった。
今まで何もなかった分嬉しいけど、その分もっと大切にして欲しかったけど、真田っぽいような。
コートで相手を見る悪そうな顔で離れて行ったのが腹が立つ。でも、好き!