『うひゃ〜!すごい!雀のお宿だ!』
「それは褒め言葉になっているのか?」


真田が跡部様からこの旅館の宿泊券を貰ったらしく、珍しく真田からのお誘いでここまでやってきた。

いかにも跡部様御用達の旅館という感じの、閑かな森の中の、テレビの取材も世界的ガイドブックの掲載も拒否しそうな隠れ処的なお宿だ。


「真田様、お待ちしておりました」


奥から女将さんが笑顔を浮かべてお出迎えしてくれた。
立派な建物に口を開けっぱなしだったのが恥ずかしい。

わたしも間抜け面を隠すように笑って会釈した。
お客様がどんな表情で、どんな行動をしていても、その人を見抜いて女将さんは笑顔を崩さずにこにこしていて、なんだか


『女将さん、幸村くんに似てるね。笑い方とか』
「……む?そうだろうか」


真田は首を傾げた。そうだよ、似てるよ。
わたしと真田が付き合い始めた頃もすぐ見抜いて笑って応援してくれたもの。いや、面白がってたのかもしれないけど。


広い玄関や広間を抜けて、中庭を抜けていく。もしかして離れを用意されてる?


「こちら、鳳凰の間でございます」


案内されたのはやっぱり離れで、跡部様が用意しただけある……。
二人の部屋なのに畳の数が数えられない広さの部屋に通されてしまった。露天風呂もついてる部屋な予感がする。
こんなお部屋に2日も泊まれてラッキー!じゃなくて、なんだか申し訳なくなってしまう。


露天風呂はやっぱり部屋についていて、部屋から少し離れた東屋のような場所だ。


『跡部様とはいえ、無条件に譲ってくれるようには思わないけど、真田何かしたの?』
「ん、いや……まぁ、テニスで勝ったのでな」


嘘だな。被ってない帽子のツバを下げようとしたな。
わざとらしく、そうなんだと返せば、複雑そうに顔を歪めた。真実はきっと言いづらいことなのだろう。旅館に免じて許してやろう。


先に真田にお風呂に行かせて、その間に部屋の散策をした。
広いなぁ。一生住めるよここ。きっと、小説家が缶詰になる旅館なんだろうなぁ。

窓から池を悠々と泳ぐ鮮やかな錦鯉を見つめる。癒される〜!
人の生活する音が全く聞こえない空間って不思議。


「姓も風呂に行ってこい」


不意に背中に熱気を感じ顔を上げると、備え付けの浴衣を着た真田が立っていた。
さ、真田のお風呂上がりなんて初めて見た。濡れてツヤツヤの黒髪も、きちんと着こなした浴衣もイイっ!真田はわかってないかもしれないけど、わたしに対して少しだけ優しくなる声がまた最高。


「どうした?」
『う、ううん!なんでもない。行ってくるね』


キャリーケースからお着替えセットとポーチを取り出して露天風呂まで走った。