「はぁ?男だけの飲み会ちゃうんか」
《すまんなぁ財前。男呼ばな合コン出来ひん言うんや。人助けやと思て頼むわ》


飲み会に誘われて暇だし、気分的に酒を飲みたい気分だったから乗ってみたらこれだ。
最寄りの駅に着いてしまったため、このまま引き返すのも怠いし、仕方なしに大手チェーンの居酒屋まで向かう。

イヤフォンの向こうから呼びかける声が聞こえる。
どうせ駅前だからキャッチかなんかだろうと歩幅を広げた。それでもなお声をかけてくる奴に一言言ってやろうと振り返った。


『財前くん!財前くんだよね?』
「あ?何の用や……姓か」
『久しぶりやん。外見は変わったけど、中はあんま変わってなさげやね』
「姓は変わっとらんな。中学のまんまやんけ」
『ひどっ!これでも化粧覚えてんで』


精一杯のおしゃれをしたのだろうか。男ウケしそうな服を着て、甘めの化粧をして、中学の頃にマネージャーをしていて焼けた肌はどこかへ脱いで色白になった姓がいた。


「どこ行くん。……合コンしかないか」
『あー……ははは、アタリ。財前くん、そういうの嫌いそうやもんね』
「おー。うるさいし、二度も会わんのに色々聞きおって。ホンマ鬱陶しいわ」


歩きにくそうな靴履いてヘラヘラ笑う姓にイラついた。可哀想だから少しゆっくり歩いてやる。

何も行き先なんて聞いてないが、進む方向が同じなのか、並んで歩く。
そういえば、先輩といた時は騒ぎながら帰ったけど、先輩らが居なくなってからは一緒に帰ることなんてなくなったな。
マネージャーと選手。お互いそれなりに仲良くはしていたのに、部活のことでも話すことは沢山あったはずなのに、帰り道だけは別だった。

姓は卒業した後、女子高に行った。一年の頃はたまに連絡してたりしたけど、疎遠になって今にいたる。


さっきは口が勝手に変わってないとは言ったけれど、見違えるほどに大人になっていた。
化粧もしてるし、その辺にあったもの適当に着ている感じもない。後輩だからと可愛がられていたその姿はなくて、自ら可愛がられるように努力をした姿だ。
女子高に行ったせいか、人として美しい振る舞いもしている。きっと中身も俺の知っている姿は面影でしかない。


『あれ?一緒のビル』
「そうみたいやな」
『5階』
「そうみたいやな」


同じ言葉しか帰ってこないので、姓は不愉快そうにない顔を歪めた。


12階で止まっているエレベーターの上昇ボタンを押すが中々降りてこない。そこの飲み屋の奴が止めてるのだろう。いい迷惑だ。

同じフロアの居酒屋。多分同じだろう。同じ合コンの席か。違う席か。知り合いが近くで合コンをしているのはなんだか気持ちの悪い話だ。


『合コンなー、行きたないねん』


ようやく降りてきたエレベーターを見つめて姓は独り言のように口を開いた。


「サシ飲み誘ってんのか?」
『んー。ちょっと授業で一緒になっただけで合コン呼んでさ、評判の悪いテニサーの子で、ちょっと嫌や』


あー、なるほどね。
俺は頭を何度か掻きむしったあと、エレベーターを待つ姓の腕を掴んだ。


「行かんでええやん」


ゾロゾロと社会人の炭火の煙たい奴らが俺らを避けてエレベーターから降りてきた。


「すまん、泣いてる子拾ったから帰るわ」
《はぁ!?》
「ほっといたら後悔するから。じゃ」


スピーカーにしなくても聞こえてくるその声を無理やり切って、携帯電話をポケットに押し込んだ。


俺は姓の腕を掴んだまま、歩き出す。行き先はどこでもいい。姓が合コンに出るってのが癪に触る。


「男ウケ狙ってその格好すんならもうやめとけ。クソつまらん」
『えー、好きでしてるだけやし』
「あっそ」
『あ、待って。わたしも断らなきゃ』


俺の手を振り払って携帯電話を耳に当てた姓。
何も払うことはないだろう。俺は繋がったのか喋り始めようとした携帯電話を取り上げた。


《もしもし、姓さんもう始まってんで!早よおいで》
「すまんな。もうこいつを合コンに誘わんでくれや」
『ちょっ!財前!』
《は?誰?》
「誰でもええやろ。ほなな」


通話を切った携帯電話は取り返され、また同じやつに掛け直した姓は何度も頭を下げた。
その焦りように気分が良かった。

一つ大きなため息を吐いて姓はポケットに携帯電話をしまった。


『ざ、い、ぜ、ん』
「断れたんやから結果的にええやろ。どうせ授業終わったらあんな奴らおさらばやろ」


言い返せないのか押し黙った姓の肩を叩いた。


「まぁ、ええやん。俺と飲みに行こうや」
『奢り?』
「……無理矢理やし、しゃーないわ」
『やったー!』


お気楽な奴や。