「はぁ。名今日も可愛いよ。いい匂いがするし、温かいし。あ、でもボディーソープ変えた?いつもと違う。それでも名には変わらないからとってもいいと思うな。そうそう、前に君が貸してくれたハンドクリーム俺も買ったんだ。お揃いだね」
『……』
「今度名が食べたがってたパンケーキのお店に行こうよ。父さんに話したら、仕事で貰った優待券くれたんだ。土曜日の午後なら予定ないんだけど、どうかな。空けておいてほしいな」

「あの姓の感じ、なんか見たことあるんだよな」
「抱きつかれて身体をキュとしてる感じか?あー……」
「「モルモット」」
「息ぴったりじゃん。さすがジャッカル」
「おう。でも、姓を助けたほうが良くないか?震えてるぞ」
「それはヤバイな。幸村くーん」



「本日の部活は雨を予想されるため、基礎練を中心の短縮メニューにしようと思う」
「うん。いいんじゃないかな」
「……姓が通って行ったのにスルーするのか」
「俺だって常日頃名を捕まえるわけじゃないよ」
「そうか。では、続きを───で、どうだろうか」
「球を出さない練習なんて新鮮だ」
『わっ!』
「大人しく、ね?」
『……』
「辞めてやれ。姓が不細工になってるぞ」
『柳くん、辛辣』
「いいんだよ。他の男が寄り付かなくなるなら不細工でも構わないよ。俺だけが名の魅力を知っていればそれでいいし、俺の顔や性格を持って他の男になびくはずがない。俺の愛情が重いって言うなら仕方なく今の三分の一まで減らすよ」
「表情が消えたな」
「それでも可愛いよ」
「ところで先程姓を一旦スルーした理由は?」
「え?トイレに行こうとしてたのを引き止めるのは悪いだろ」



「姓、随分暗い顔をしているが、どうした。何かあったなら幸村に聞いてもらえ」
『いや、それなんだけど……』
「疲れる?幸村に扱かれてる俺たちの方が疲れると思うが」
『そうだね……。圧倒的に待遇が違うのも疲れるよ』
「ふむ。言われてみればそうだな。しかし、俺たちが何を言っても幸村は考えを改めることがないと思うぞ」
『うん……。聞いてくれてありがとう。ちょっと話してみるよ』
「気張れ。丸め込まれるぞ。まぁ、六割ほど姓を苛めて楽しんでいる節があるが、いい恋人だとお互い確信しているのだろう」
『うん』
「ならば、人前では節度を持ってほしいと言うんだな」
『わかった。でも、節度ってどれくらいだろう?』
「具体的に嫌なところを挙げればいいだろう。鬱陶しいと思うが、邪魔になることも、場を見て、空気も読む」
『匂いを嗅ぐとかどう?』
「あいつはそんなこともしているのか。うむ……よくは思わん」



『そういうことなので、過度なスキンシップは控えてください』
「んー?じゃあどこで俺は名に触りたい欲を発散させればいいんだい?」
『何のためのデートなの』
「そりゃ、私服で歩いて、吟味する横顔を見たり、食べる姿を観察して、一日中にこにこ笑ってる姿を見るためだよ。目の保養であって、スキンシップとは違うんだよ。手を繋いで歩くのが外では限界だろ?名がいいなら、俺の家でゆっくりしてもいいんだよ?」
『あー、あー……それは』
「大丈夫だよ。俺は理性だけはちゃんとしてる。いつ何時も冷静だ」
『信じるね』
「いや、ごめん。嘘。火がついたら蹴ってでも逃げること。俺は名が傷付いて怖がって俺から離れる方がつらくて苦しいから」
『弱気だね。でもね、幸村くんだからわたしは多分平気。いつも力で負けるから振り払わないんじゃなくて、安心するからだから』
「知ってる。嫌がってる時もちゃんと伝わってるからね」
『大好きだね』
「大好きだよ」
『わたしも大好き』