「ねぇ、名。先週末、俺の誘いを断ってどこに行ってたのかな?」
「俺に救いの目を向けるな。自分で解決しろ」
『待って柳!幸村と二人きりにしないで!!』
「精市の誘いは基本的に優先しろと前々から忠告していただろう。じゃあな」


来週末の合宿のスケジュールとこちらが用意する備品の相談をしていた時だった。
幸村と柳とわたしで部室に残り、ほかのメンバーは自主練に励んでいる。


一通りの確認も備品のための予算も分かったところで、幸村が口を開いた。
両手首を幸村に掴まれ、柳に助けを求めたが相手にされず、部室に二人きりになってしまった。

幸村は部活の時間を無駄にすることを嫌う。今、この場で私的な話し合いに時間を割くなんて考えられない。

だけど、目が逃すかと冷たく睨んでいる。


『ま、丸井とスイーツビュッフェに行ってました』


ごめん、丸井!

ここで正直に言わないとわたしはもっと痛い目に合うんだ。丸井も多少火の粉を被ると思うけど……。
幸村からの誘いもあったことを黙ってたから、丸井からも文句をつけられる。


「ふぅん。俺と美術館に行くのはつまらないか」
『美術館はつまらないけど、幸村と過ごすのは楽しいから!丸井はスイーツに強いのがわたしだけだから誘ってくれたから悪く思わないで』
「そうかい」


幸村は手を離してくれた。 掴まれてたところがちょっと赤くなってる。
幸村はいつもなんで横暴なんだ。わたしには特別、とびきりの意地悪をしてくる。
わたしの時間は幸村の時間なんだって思うくらい。

確かにマネージャーだから、練習時間を他のことに割かないために動くから幸村のための時間と言っても構わないんだけど、幸村を優先するって言うのがわからない。

前もってなんでダメなのか伝えておけば気分を損ねないんだけど、丸井と予定がって言うと不機嫌になるのがわかってる。
幸村はそういうちょっと幼いところが何となく見えている。


わたしとの話が済んだので、もう部室を出て練習をしている。
わたしも部活に気持ちを切り替えたいのだけど、幸村のことが気になって捗らない。


「暗い顔しとるの」
『仁王な柳生。ちょっと幸村とね』
「ああ、だから幸村君は少し晴れやかなんですね」
『晴れやか?』
「気がかりが一つなくなったという顔をしていますが」


今さっきの出来事で晴れやか。なんで?


「姓が隠し事をしとらんからじゃな」


余計にわからない。わたしの隠し事がなんで幸村に関係するんだ?


「今の会話も探られるじゃろうな」
「ええ、そうですね。私語は良くありませんね」


それだけを言って二人が去ろうとするので、服を掴んで引き留めた。

なんでそんなに幸村はわたしのことを逐一知りたいのか。

先週のお誘いは幸村の方が後出しだ。先約があるからって断ったから、わたしが悪いことなんてないのに、あの聞き方がなんか癪に触る。


「気になるでしょうねぇ、男として」
「若干構い過ぎに見えるがの」


そう言って二人は走り去ってしまった。

もう。結局何でかわかんなかったじゃない。


「姓、捗ってるかい?」
『幸村!いつも使ってるスポドリの粉が在庫切れで、少し高いので揃えていいかな?』
「それは仕方ないな。うん、構わないよ。他は大丈夫かい?」
『うん。明後日までには届くと思う……幸村、近い』


さりげなく腰に手を添えて、必要以上に優しく囁くように耳元で話す。
他の部活がうるさくないから、ここまで近くで話さなくていいのに!

幸村の顔を見れば、慈愛に満ちた顔をしていて、これは嫌な予感。前にもこんなことあったような。


『ひっ!』
「ん。じゃあ、よろしく」


あ、あの野郎、まぶたにキスしやがった。
相変わらず何事もなかったかのように立ち去るし。

本当に、本当になんなんだ、幸村精市という男は!