『あ。あの』
「ん、なんだい?」
『あんまり見ないでください……恥ずかしいので』
「わかった」


そ、逸らしもしない……!


悲願の魔法学校入学を果たしたのだけど、わたしみたいな勉強と知識だけで入学した人は殆どいなくて、大体家系が魔法使いのエリートばかり。
実技は失敗ばかりのわたしは落ちこぼれていくばかりで、友達もできやしない。

そんな中、随分変わった先輩に付きまとわれるようになった。
ローブにいくつかエンブレムが付いているから、相当成績も良く先生達からも可愛がられているのだろう。
美形だから大変おモテになられるのだろう。

そんな人にコソ練を見られるのはすごく嫌だ。
せっかく人気のないところを毎日見つけては練習をしているのに、気付けばそばにいる。
離れて見ているなら、彼のお気に入りの場所にわたしがやってきてしまったと自分を誤魔化せるのに、隣に座っていたり、後ろから覗き込んでいたりするのだ。
気付いた時には心臓が止まりそうになる。

隣にいるけど彼はアドバイスなんてしない。
本当なんでいるのかわからない。


『き、今日はここまでにするので、失礼します』
「そっか。またね」


彼のそばからサッと立ち去って別の場所で練習しよう。
振り返ると先輩も反対の方向に歩き出してるし、このままあっちの物陰で練習しよう。


今日こそ水を自由に動かせるようにしないと……!
水を宙に浮かせるくらいはできるようになったんだから!


「帰るんじゃなかったのかい?」
『ヒャワァ!』


後ろを振り返ると先輩の顔があるし、水が弾けて身体にかかるし散々だ。


「手を出して」


けらけらとひとしきり笑った先輩はわたしの手に花の彫刻の指輪を置いた。

先輩の魔法のアイテムなのかな。

先輩はつけてみてと促されるままに人差し指に通した。
ぴったりすぎて、先輩の指の細さを疑ってしまった。その様子を見て先輩はまた笑った。


「いいかい。魔力を使うために補助の道具が必要なんだ。その指輪とか杖とか。コツを掴むと必要なくなるから先生は飾りで使ってるんだよ」


本当だ!水が簡単に浮くし、その上服についてる水滴も集められる。

わたしは今まで何をしていたんだ……。そういえばみんな何か持ってたな。
側から見れば飛び級しようとしてるバカじゃん……。


「君の場合そのブローチなんだけど、気付いてた?」
『いいえ』
「だろうね。一応、理由あって配られてるからね」


地味で古びたブローチが学校から届いて何かと思ってたけど、これが魔法具とは思わなかったし、授業では外して受けてたよ……。


「じゃあ、教えてあげたしその指輪と交換ってことで」
『あ、はい。ありがとうございました』


こういうのが流儀なのかな?
先輩と後輩が教え合うっていいな。不思議先輩だけど、いい人に出会えた。


「よし、これで俺と君は運命共同体だ」
『へぇ!?』
「あれ?本当に君は何も知らないみたいだね。最初に手に入れた魔法具は自分の片割れだから交換し合うってことはそういうことだよ」
『ままま待ってください!何にも知らないんです!返すので取り消してください!』
「ダメダメ。魔法の掟は厳しいんだ。一年でももう習ってると思ったんだけど……。俺でよかったね」
『良くはないです!』


取り返そうにも先輩はうまく躱して取れない……!


「俺、幸村精市って言うんだ。君は?」
『名前も知らずに契約するんですか!?先輩は非常識です!』
「だから今聞いてるんだよ」
『姓名です!もう!』
「いい名前だ。これで晴れて俺たちは恋人だ」


翻る先輩にそのまま手と腰に手を添えられ、くるくると不恰好なダンスに変えられてしまった。


『本当に交換すると恋人になる契約ってあるんですか?』
「あるよ。他の子にも聞いてごらん」


ゆっくりダンスは止まり、最後に先生がわたしの指先にキスをした。
慌ててその手を引っ込めると、愛しいものを見る目が向けられていて、急に体が動けなくなった。


これが魔法にかかった状態なのかしら。