「おねーちゃん、おれがおおきくなったらけっこんしてくれますか?」
『いいよ。大きくなったら結こんしようね』
「やくそくだよ」


小さい頃の約束。年の離れた幼馴染の精市くん。
近くのお庭の大きいお家に住んでいて、テニスがとっても上手な大人しくて可愛い子だ。


わたしが大きくなるにつれて一緒に遊ぶことがなくなっていった。
母伝に精市くんが中学生テニスでトップになっていることも知ったし、病気で倒れたときも疎遠すぎてお見舞いに行くこともなかった。


わたしも社会人になり、忙しい日々を送っていた。
家から通える職場けど、そろそろ一人暮らしも考えようかな……。


あれ、家の前に誰かいる。
何か持ってるけど、すこし粧し込んでいるから配達員さんではないみたい。
わたしの足音に気付いて、彼はこっちを見て微笑んだ。


「名ちゃん!」
『精市くん……?』
「はい!迎えに来ました」


精市くんはわたしより小さかったのに、わたしを追い抜いて、やばカッコいい。


『カッコよくなったね君!?』
「名ちゃんは変わってないね。ううん、変わっていく姿をずっと見てたから驚かないだけかな」


髪型も声も女の子の扱いも変わっちゃって、男の子の成長にびっくりしちゃった。


『それで精市くんがわたしの家に何か御用?家に誰もいなかった?』


電気がついてるから誰かはいるはずなんだけど、お風呂に入ってて気付けなかったのかな。

夜中というほど更けた時間ではないけれど、わたしの年から考えるに精市くんは18歳くらいのはずだ。
そのくらいの年頃の子が歩いててもおかしくないけれど、わたしの家の前に立ってるのはちょっとおかしな話だ。


精市くんか?本当に精市くんなのか怪しくなってきた。だって、子供の頃と全然違うし。


「約束覚えてる?子供の頃の約束」
『えっ』
「忘れたの?俺、信じて大きくなるまで待ってたんだよ。結婚するって」


やっぱりー!?
その花束はわたし宛のものだったんですね!

怒ってるような悲しんでるような、なんとも寂しげな顔を浮かべる精市くんを目の前に、全身に冷や汗が吹き出る。


『覚えてるけど、子供の約束だし……』
「俺には正式な婚前交渉だったの」
『精市くんまだ未成年でしょ?ほら、世間体とかさ』
「高校は卒業したし、収入だってある社会人になったから立場は同じだよ。それに俺たちくらいの年の差よくあるじゃないか」


押しが強い!自分が負けるなんて更々思ってない強さ!


唇を尖らせて近づいてくる精市くんと距離を保ったまま後ずさる。
どうしたらいいんだ。困った……。こんなに押しの強い人が過去に彼氏になった試しがない。


いいかい。と前置き、精市くんはわたしの腕の中に花束を置いた。
白い花と明るい緑の葉の甘いけど上品でとてもいい匂いのするホワイトブーケだ。


「俺はまだ君を追いかける。でも15年後ろに居たんだ。そろそろ隣に立たせてほしい」


精市くんは片膝を地面について、ブーケの上に乗った手を取り目を見て微笑んだ。


「俺は名以上の女性と出会えなかった。俺と結婚してください」


キラキラと期待に満ちた目がわたしを射抜いた。


「早くしないと名がアラサーになるよ」
『うるさい!でもまだダメ』
「いつか結婚するのはいいんだね」
『そうじゃなくてお付き合いしてもないし、いつも近くにいた人でもないからダメなの』


わたしの知ってる精市くんは漢字も書けない男の子だ。それがいきなり大人の男性になって現れてるんだ。

お互いの生活のすり合わせって大事だと思うんだ。
社会人になってからそれがよくわかった。好みや趣味だけじゃ絶対にダメ。


それを聞いた精市くんは、少し悩んでしかたがないと頷いた。


「結婚を前提にお付き合いしていただけますか?」
『喜んで……はっ!』
「名は昔からひっかけのなぞなぞとか苦手だったね。変な男に利用されてなくてよかったよ」


意地悪だったのはどっちよ!と言いたくなる気持ちをぐっと抑えて、彼に携帯電話を差し出した。

精市くんは受け取り連絡先を入力した。
一つ想いが報われて嬉しそうに、今にもにやけそうな頬を抑えるようにして、スラスラ打ち込みわたしの手に帰ってきた。


「あとで連絡するよ。明日もお仕事頑張ってね。おやすみ」
『うん。おやすみなさい。精市くんも頑張ってね』


家へ帰る精市くんの背中に手を振り、この花束を親にどう説明しようか3メートルもない門柱から玄関までの間に考えなくては。
ご近所ネットワークで一気に広まるだろうなぁ。精市くんは評判がいいらしいし。

ま、なるようになるか!
リビングにいるであろう家族に向かい帰宅の挨拶をした。