その日、放課後の廊下で一人で勉強していた。
時折通る先生に訝しげに見られながら、対して進まない問題集を睨んでいる。

それはそうだ。勉強が目的じゃないんだから。
下足室にひと気が無くなるのをただただ待っているだけなのだから。


「名お願い!これを三好くん靴箱に入れて!」


昼休みの友達からの頼まれた事でラブレターを入れるはめになったのだ。
ラブレターといえば白封筒にハートの封閉じでしょって受け取った、テディベアの封筒。
どうせ手渡しじゃないなら自分で入れればいいのに。ものいっそ目の前で渡してやろうか。


そろそろ人が居なくなっただろうか。
立ち上がりD組のロッカーの列を探す。
ロッカーの側面に一応印刷されてるんだけど、随分掠れて正直A組のロッカーもどれかわからない。


『三好、三好……あった』


目当てのロッカーは名前が書かれていて助かった。
三年にもなると移動先のロッカーに名前なんて書かない。わたしもめんどくさくてそうだ。

よくは知らないけど、三好は人並みにやんちゃしてるけど根は真面目でモテるとは言わないけどいい奴には違いない。

友達は彼女が居ても気持ちを伝えるつもりでいる。
卒業間近だし、どこかに恋の節目をつけたいんだろうな。


『どうぞよろしくお願いします』


始まる前から終わるより、始まってほしいし、友人のわたしからしてみれば終わることなく末長くあってほしい。
そうお祈りをして、手紙を下駄箱に入れた。


「姓……?」
『うわっ!はぁぁ〜……幸村くんか』


びっくりして大声を出したしコンクリートの下足室に声がこだました。


全然気配がなかったからびっくりした。
まさかさっきの見てないよね?勘違いされたら嫌だな。三好を好きなのはわたしじゃないから困る。


幸村くんは部活帰りなのか、重そうなラケットバッグを持って立っていた。
不思議そうな顔をして、こちらに向かってきた。


「何してたの?」


いや!これはわたしが何をしたか見ていた顔だ!

しどろもどろになっているわたしの顔に顔を近づけて、意地悪そうに笑っている。
わたしはD組のロッカーに背中をつけて逃げ場なし。冷や汗だか脂汗だかが滲んで身体が湿っていくのがわかる。


「三好かぁ、意外だね」


幸村くんは三好くんのロッカーに手を置いてにこーっと笑った。


『いや、それ、わたしじゃなくて』
「本当にぃ〜?」
『ホントです!』


幸村くんの手を退けて三好くんのロッカーを開けた。

彼の残された薄汚れた校舎履きを避けるようにテディベアの封筒が置いてあった。
三好くんへの宛名の裏に友達の名前がきちんも書かれていた。昼休みに書いとけって脅しといてよかったぁ〜。


幸村くんはそれを見るとつまらなさそうに手紙を靴に立てかけた。


「うまくいくといいね」
『わたしもそう思う』


パタンと静かにロッカーは閉じられた。
よかったな!幸村くんにも告白成功をお祈りしてもらえたぞ!


「もし姓の書いた手紙だったら破るところだったよ」
『嫌いになるよ』
「だって、三好みたいないい奴をお前から守れるじゃないか」
『酷くない?』


なんかもう幸村くんのからかいに付き合ってられない。

廊下に散らかしたままの荷物を片付け自分のロッカーへ向かう。


『なんでついてくるの』
「なんとなくかな」


幸村くんのクラスはC組なのでロッカー自体はD組と向かい合っているはず。彼も律儀なタイプなのでロッカーに名前が書いてある。
わたしのクラスはもう少し先にあるから移動する必要があるとはいえ、幸村くんは用事がないはずだ。

というかそもそも、日常的にテニスシューズを履いてる幸村くんは部活終わりにここにくる必要は全くないはず。


「なんだ君には入ってないね」
『幸村くんとは違うので』


履き潰したローファーを床に放り投げる。幸村くんはお行儀が悪いと呟いた。


『まだついてくるの?』
「どうせ向かう方向は一緒じゃないか」


校舎を出ても当たり前に隣を歩く幸村くんをじっと睨むと、見つめられると困るなと言った。
暖簾に腕押しはこういうことか。


『ラブレターを貰うってどんな感じ?』
「さも俺がラブレターを貰ってるみたいな言い方だね」


まぁ、そうだけど。と付け足して幸村くんはうーんと唸った。

もう幸村くん的にはラブレターは嬉しい物じゃないんだろうなぁ。沢山貰っている感じがするし。
わたしならびっくりして嬉しくて大事に読む。

でも、幸村くんがうーんって悩むのはわかる。気持ちに応えるかは別だし……。
好きだけでも口で伝えて欲しいなぁって思う。形が残る告白も趣があるけど。


「貰いたい子がいるから、毎日期待して寂しくなるな」
『その子から貰えそう?』
「絶対貰えない。そんな子じゃないから」


幸村くんはその子をよく知っているらしい。うんうん頷いて納得している。
そんな子からラブレターを貰うなんて、彼氏がいる子から貰うより難しいじゃない。

でも、幸村くんの目は決して諦めている様子はない。
どこかにチャンスを確信しているようだ。


『逆に書いてみたらいいんじゃない?』
「それもアリかもしれないなぁ。ところで君はラブレターは嬉しい派?」
『嬉しいよ。それに口でも想いは聞きたい』
「そうかい。あ、」


幸村くんは大きく頷き、会話の途中だけどと断り信号で足止めを食らっているバスに気付いて走ってバス停に向かっていった。
バス通学は15分に一本来てても、乗りそびれるのは悔しいから走っちゃうんだろうな。

バスの窓に手を振る幸村くんが見えたから振り返した。
今日の幸村くんはなんだか違って見えたな。どこがどうしたんだろ。うーん。

この胸に残ったもやもやは明日の朝ロッカーを開けるまで晴れることはなかった。