わ〜、前から幸村くんが歩いてきてる。
幸村くんよりでかい真田や柳がいても目立つな。
すれ違うほど近くに行きたくないし、階段使って回り道しよ。
彼らは上と下どっちに行くんだろう。
どっちにしたって、今わたしの行きたい方向から来たんだし、そっち側には彼らは用事がないだろう。
幸村くんを避けるほど恨みはないけど、なんか無意識に避けちゃうんだよね。
彼が目立ちすぎて、一目置かれて、ちょっとした有名人ってところが関わりたくないポイントなのかな……。
同じく悪目立ちしている仁王と丸井もあんまり関わりたくない。
それ以外のテニス部は近くにいても平気というか、飛び抜けて目立ってない。
真田に関しては近づく奴が少ないってところもあるけど。
柳や柳生も話しかけて得になることがある気がするから、困ったことがあれば声をかけることもある。
仁王と丸井は多分わたしに話しかける理由があって声をかけて来そうだから、気をつけていれば関わることはないと思っている。
だけど、幸村くんはなぁ……。
遠目から見てて今にも話しかけてきそうな気配がすごいんだよなぁ……。
目が合ったら最後の大型犬って感じ。
飛びついてきて、可能な限りの愛情表現と構ってアピールをするゴールデンレトリバーと大差ない。
階段を降りてもテニス部の会話が聞こえる気配がない。
こっちの方には用事はなかったようだ。助かる。
「あ、逃げられちゃった」
「これで102回目だな」
「恥ずかしい記録を数えないでくれないかい?」
「なんの話だ?」
「さっき正面にいた姓さん……だっけ?彼女、俺を避けるんだよ」
俺が前から歩いてくるのに気付くと何気なく、さもその場所に用があるように消えてしまったり、人の波に上手く隠れてすれ違ってしまう。
個人的にはクノイチって呼んでるんだけど、俺以外のテニス部は普通に接触できるみたいで誰も共感してくれない。
正面から話しかけるから避けられるとか言われるけど、立海の校舎って言うほど曲がり角があるわけじゃないし、間が悪いのか大体彼女は友達といて特別な用もなく声をかけることができない。
運もないのか、特別な理由を頂戴することもない。
真田はイマイチピンと来ないのか首を捻った。
彼女と接触する機会ってないものだろうか。
どうして俺を避けるのか聞いてみたいものだ。
蓮二には興味本位で近付こうとする俺の気配を彼女が感じ取っているから避けられるのだと言う。言い得てる。
丸井からはそんな奴に興味を持つだけ時間の無駄とも言われた。
ほんの一言挨拶するだけで構わないんだ。
不思議だよね、好奇心は猫を殺す。
仲良くもなく、用もなく、自分がちょっと学内で有名なだけで気を大きくして声をかけたら恥をかくのは俺なのに。
「姓はこの先に目的があるならこの階段の前にいれば接触は容易だろう」
「……あ、そうか。そうだね!いいこと言うね、真田」
「精市はたまに単純なことを見失うな」
「うるさいなぁ。ほら、真田も柳も向こう行って。目立つんだから」
不満そうな二人を追い払い、階段の陰に隠れる。おそらくここは昇ってくる彼女からは死角だろう。
蓮二曰く、彼女の時間割的に曲がる方向はこっちらしいから待ってみるけれども、実際どうなのだろうか。
ちょっと声をかけるだけなのになんだか緊張しちゃうな。
「やぁ。……え!ちょっと!」
俺の顔を見た途端、押さえつけられたように壁に張り付きそのまま廊下の奥へ走り去ってしまった。
めちゃくちゃ驚いてたし、顔が青いように見えたけど、大丈夫なのだろうか……。
「103回目だな」
俺が置き去りにされることを見越して戻ってきた蓮二に拳を固めそうになった。
「やっぱり見てたのか……俺の何が悪いんだ」
「存在そのものだ」
「死ねって?」
「過激だな。有名人と知り合いなんだとヘラヘラ笑いたくないということだ」
「学校だけだろ。規模が小さいよ」
わざとらしく大きなため息を吐いた。
こうも訳の分からない理由で避けられると逆に燃えてくるものがある。
蓮二にそういうところだって言われたけどわからないことにしておこう。
『ひっ』
今ちょっとゾワッとした。嫌な予感。
わたしの身にとんでもなく厄介なことが起こりそうな気がする。
例えば、幸村くんと友達になるとか……。
幸村くんはわたしと接触しようと企んでるもの。最近のエンカウントは幸村くんの強い意思を感じる。
ちょっと警戒しとかなきゃ……。