「名……なんだいこの点は」
『12点です……』
「俺と勉強しておいてこの体たらく。お仕置きが必要だね」
わざとじゃないんです。ただ、ただ、テストが予想以上に難しくて、解いてる時間がなかったんです。
幸村くんに付きっ切りで勉強を教えてもらったからちゃんと解けるし、柳くんに作ってもらった模試だって解けたのに……。
「エロいやつかな」
「赤也黙っとけよぃ」
幸村くん滅茶苦茶イライラしてる。
嫌だな。また怖いことされたくないよ。
まだ赤也が真田くんに怒鳴られ、ビンタされてる方がマシに思えるもん。
「ホラー映画鑑賞会の刑に処す」
『ギャー!』
やっぱり!やっぱり!わかってたよ!
もうちょっと点数が良ければ、頬をつねられて終わるはずだったのに。
返却された時には血の気が引いた。
絶対真田くんが何も言えなくなるくらい幸村くんが怒る未来とお仕置きされることくらい察した。
よく考えれば、今までのテストで幸村くんに褒められたことないな。
「喧しい。おい、幸村。復習が先だろう」
「復習はもちろんするさ。反省するための刑だよ。先に執行する」
「精市、それでは姓のメンタルが持たない。別日にすることを提案する」
この法廷、真田くんにも柳くんにも減刑の弁護がなくてそのままストレートに執行されそう。
『ジャッカルー!やぎゅー!助けて!』
「今回は難しかったよな」
「そうですね。平均点も60点を下りましたね」
『ほらー!今回は難しいんだって』
心の優しい弁護人に助けを求めた。
幸村くんはここまで想定内のようで一つため息を吐いた。
「2人は?」
「94点です」
「72点だ。悪い名」
「ほら。勉強すれば取れるんだ。大人しくお仕置きを受ける」
『やだー!』
何が難しいだよ。柳生はいいとして、ジャッカルまでもそこそこ点を取って。
ジャッカルはブン太とふざけながら勉強してたくせに。
一番行動のわかんない仁王だってそこそこの点を取って裁判回避してるし、ブン太も何気なく勉強をしてた。
幸村くんに教えてもらったのになんで取れなかったんだろう……。
だんだん悲しくなってきた。時間を割いて教えてくれた幸村くんの方が悲しいだろうに。
「俺のオススメじゃき、面白いのは保証付きじゃ」
今回のコーディネーターは仁王なの。仁王の選ぶ映画って、人間が一番怖い系だから嫌なんだよな。
赤也とかブン太はアクションだからマシなんだけど、幸村くん自身が選んでくるホラーが一番こわいから、仁王の方が数段いいか。
「毎回思うんっスけど、効果あるんですかね、ホラー映画の刑」
「追試は毎回高得点だからいいの。まぁ、後は幸村くんの私情だよな。泣くし、抱きつくし、怖くて眠れないから電話かけてくるらしいし」
「なるほどな〜」
「丸井」
「姓のリアクション想像できるのに続けてるってことはそういう事でしょ?」
「まぁね」
「姓先輩、とんでもないサドと付き合ってますね」
『え?幸村くんは優しいけど』
赤也は幸村くんの方を見た。幸村くんは微笑み返し、赤也は顔を引きつらせてわたしの方に向き直った。
幸村くんは優しいよ。
勉強教えてくれるし、頑張れば褒めてくれるし、罰もきっちり与えるけど側にいてくれるし。
「俺が言うのあれっスけど、先輩一生幸村部長の手のひらの中ですよ」
『それ、幸村くんがいなければダメになるのわかる』
「初手依存とはやるのぉ、幸村」
「ふふっ、その方が可愛いだろ」
ちょっとおバカなくらいがちょうどいいんだって。
そういうと、幸村くんの笑顔から冷気が出た気がするので、彼のそばにいるにはちゃんとした学力は必要なみたいだ。
幸村くんという人は、さっきまでホラー映画を見たくないという話をしていたのに、話題を外らせて不意打ちをかける悪い人だということをすっかり忘れていた。
デートとしてのこのこ彼の家に行って泣き叫ぶのは数日先の話だ。
「復習、するのだろうか」
「気にするな弦一郎。精市の作戦のうちだ」
「お似合いですよね、お二人」
「似合……手懐けられるのはお互いだけって感じだな」
「ほんに、幸村が姓を見捨てないのが不思議なくらいじゃ」