「姓って一生彼氏できないだろうなぁ〜って最近思うわけよ」
『めちゃくちゃ失礼』
いや、姓のモンペめっちゃ怖いから誰も寄りつかねぇよ。
今まで俺たちが何気ない日常会話をしている時はにこにこと笑っていた幸村くんが、姓の恋愛話になると急に目が据わった。
テニスでもあんな顔の幸村くん見たことねぇよ。
女子Aも姓に彼氏できないね〜とかそういう話を振るんじゃない。
姓の場合寄り付けないの。幸村くんが割り込んでくるから。
あいつのことちょっと気になるな〜なんて言ったら最後。
幸村くんは自然とそいつと仲良くなって、俺の方が姓と仲良くて親密な関係なんですよってアピールしていく。
時間をかけてそれはもうじっくりと。
幸村くんの怖いところは誰も貶さない押し付けない根も葉もない噂を吹き込まないこと。
人間関係は絶たずに恋愛を終わらせるのだ。
姓が気になるやつに自然と姓を会話に混ぜて仲良しアピールをほんの少しすれば、もうそいつは諦めたも同然。
仲良しアピールも俺らテニス部からすれば別に何とも思わない内輪話だ。だから嫌味もない。
マジ、幸村くんが頭の切れる人でびっくりする。
今まで姓を好きになったやつ何人くらいいるんだろう。
『この姓名ちゃんの美貌に気付かないなんて、馬鹿な男たちばっかりね!』
「そのキャライタいからやめとけよぃ」
『はい。でも実際、こいつわたしのこと好きなのかなぁって気配はたまにあるんだよね』
!?結構察しがいい姓だから気付いてたりしてたのか。
まぁ、なんとなくわかるか。
デレデレしてんなぁとか、チラ見してくるなぁって。
そういう経験俺も結構あるからわかるよ姓……。
そういうの、気付いた時にどうにかできるものじゃないから困るよな。
「それって絶対名のこと好きじゃん!」
『いやいや、結局勘違いというか、気付いたらあんまり話さなくなるというか、幻滅するんだろうね』
幸村くんおっかねぇ……。
玉砕すると話かけることも難しくなるくらい心を折るのか。
下手に友達でいようねって言われるより辛くない……?
幸村くんはにこりと笑った。悪いことだと一ミリも思ってない顔だ。
幸村くんが姓を悪い虫から守ってるのは結構昔からなんだけど、この二人実は付き合ってんのかな。
そんな話一切聞いたことないし……。
寧ろ、幸村くんが姓を好きって話も聞いたことないな……。
幸村くん趣味で姓を他の男のものにしてないの?怖。
「丸井、さっきから上の空だけど、大丈夫?」
「腹減ったなぁって」
『もう。そればっかり』
「あ、ヤバ。塾だから行くね〜!」
散々嵐だけ起こして行って去って行ったよ、女子A。
『続くんだけど、丸井って好きな子いるの?』
「へ?いないけど」
あ、待って待って。この流れちょっとヤバくない?
俺、明日モンペに殺されない?
姓、ちょっと恥ずかしがらないで。
いや、待て。女子Aが俺のこと好きでさりげなく聞き出そうとしてるのかもしれない。
そうだ。そういうことにしよう。
『わたし、丸井のことちょっと気になるの』
ぎゃー!幸村くん俺のこと消さないで!
俺もうちょっとジャッカルとダブルスした……あれ?幸村くん腕を組んで満足そうに頷いてない?え?
どういうこと?
そういえば、俺も最近女の子に構われる機会が減ったような気がする。
俺にもモンペ付いてる?もしかして。
『ご、ごめん。なかったことにして……』
「あ、やー……あの」
モンペめっちゃ睨んでくる。
すごい重めの圧を感じる。テニスよりプレッシャー大きいんだけど。
「あー。えー……俺ももっと姓と話したいかも」
不安げに俺の顔を見ていた姓が安心して、にやける顔を抑えて無理にはにかんだ。
その顔はちょっと変化球すぎて刺さったかも。
姓は可愛いし、テニス部のマネージャーだから恋愛で部活に支障出したくないから幸村くんが手を回してると思ったんだけど、実は俺とくっつけるためだったとか……?
どうなの幸村くん。と、彼の顔を見ると笑顔で拍手していた。
リアルの人間で恋愛シミュレーションしないでくれよぃ。
幸村くんどんだけ神っぽいことしてんの……。
「と、とりあえず二人で帰るか」
『うん。えへへっ』
えぇ、なにこの子超嬉しそうじゃん。
姓のこと部活一緒だし話すし色んなところ見てきたつもりだったけど、なんか急に可愛く見えてきた。
こんなのありかよ。