「聞きたいことあるんやけど、姓ちゃん、ちょっとええか?」
『えー!?容姿端麗頭脳明晰運動神経抜群パーフェクト中三男子の白石蔵ノ介がわたしに聞きたいことー?!』
「容姿端麗頭脳明晰運動神経抜群パーフェクト中三男子の俺でも悩みはあるんや」


机に肘をついて大袈裟なくらい悩ましいため息を吐いた白石が、結構本気で頭を抱えていることが察して取れた。

パーフェクトな白石だからこそ相談できないこともきっと多いのだろうね。
同情するけど、同じ立場にいないから理解しきれない。


『話してみなさい』
「何の真似や?」
『あたし、名デラックスよ』
「名デラックスさん、あんな」
『ノらなくていいよ……』


今の白石、どんなボケも多分真に受けてしまう。


あまりにも白石が思いつめている様子で、どういう姿勢で話を聞けばいいのかわからない。

もっと軽い気持ちで聞いてくれないと、いざ進路とかだったら重い。
わたしだって迷って、無難な道を行こうとしてるのに……。


白石はわたしと目を合わせては、言い出そうとして俯いて、口を開いては腕組みして首を傾げて中々切り出さない。
いい加減にしてほしい。

今度はもじもじし始めた。
こっちはイライラしてきたよ。


「デートの誘い文句どうしたらええやろ」
『は?』


思ったよりイラついた声が漏れてしまった。


白石は乙女のように丸めた手で口を隠し、頬の色が桃色よりも朱色に変わっていく。


『どこどこ行けへん?じゃあかんの』


呆気にとられた間抜けな顔のまま、頭に浮かんだ言葉をそのまま伝えた。

白石は腕を組み、背中を丸めうんうんと唸り始めた。


「共通の話題があらへんのや。その子がパンケーキとかパフェ食べたいとか言ってたらわかるで。そんなのないやん?」
『知らんし。動物園とかプラネタリウムは』
「タイプちゃう」
『ショッピングしかないやん』
「せやろ。どないしょ」


このままでは堂々巡りもいいところだ。
わたしには白石とその子の関係が見えないから、どういうお誘いをすればいいかさっぱりだ。


今、個人的にお腹が空いているから、駅の反対側にできた、アメリカンなチーズハンバーガーが食べられる店に行きたいことしか考えられない。


でも、デートにハンバーガーはない。
ましてやかじりつくようなものは、素を晒け出せるくらい恋人の関係さえも飛び越えた深い慈愛がないと無理だ。


「姓ちゃん、今ちゃうこと考えてるやろ」
『お腹すいた〜ハンバーガー食べた〜いって思ってた』


正直に答えると、白石はしゃあないなぁと言ってカバンを持って立ち上がった。


「場所変えて話そか。残っとったみたいやけど、なんかある?」
『家の鍵忘れたから時間潰してただけ〜。行こ行こ』


カバンを持って白石の隣にひょこひょこと並ぶ。

お互いにその店の場所をよく知らないので、なんとなくで行けるやろ!と能天気に学校を出た。

しかし、能天気で楽観的なわたしたちはハンバーガーにありつけなかった。
話題の人気店だ。並んでるし、整理券は配り終わって今日の分は終了したらしい。


「これじゃ、デートは大失敗やわ!」
『ほんまや。行きたい時は朝から行かなあかんな!』
「ほな、どうしよか。クリームソーダとか興味ない?」
『ある!』


白石に案内され、車がすれ違えないほど狭い道にレトロな喫茶店があった。
日焼けたポスターや、手書きのメニューがこの店がどれくらいこの町を見守っていたのかよくわかる。

なんだ。白石、ちゃんといい店を知ってるじゃん。
こういう店は女子だけで入りづらいし、クリームソーダとか店内の雰囲気とかすごく映えると思う。

窓際のボックス席に座り、分厚い流し込みガラスの窓が夕陽できらめいていた。


『どうしよ、めっちゃ種類ある』
「俺メロンで」
『えーと、ラムネでお願いします!』


数分悩んだ末、無難なフレーバーにした。
次来た時はミックスジュースにしよ。


「話の続きやねんけど」
『それな思ってんけど、わたしにしたみたいに聞けばいいと思うで。好みとかわからんでも、何とかなると思うで』


白石くらいになると、一人じゃ行きにくいからついてきてとか通用すると思う。
今日みたいに失敗しても、臨機応変にその場で対応できるだろうし。まぁ、今日のはちょっとダサいけど。


「デートな、上手いこと誘えたからええねん」
『いつのまに!やったやん、白石』
「近いうちにもう一回くらいできそうやわ」


気が早くない?と聞き返す前に、マスターが青いラムネのクリームソーダと、オーソドックスなメロンのクリームソーダが運ばれ、話が遮られた。


『幸せ〜!』
「姓ちゃん、こういうの好きなん?」
『大好き〜』
「また連れてったるわ。姉ちゃんと妹がぎょうさん知っとんねん」


ニコニコと頬杖をついて笑う白石はデートに誘えて上機嫌だ。
クリームソーダをストローでくるくると回し、アイスクリームとメロンソーダが混ざり合い、鮮やかなグリーンから白石の髪のような色に変わっていく。

上機嫌すぎて逆に上の空だ。


『デート、上手く行ったら惚気聞かせてね』
「いくらでも話したるわ」


そういえば、白石の好きな子についてどんな子か触れなかったなぁ。ま、いっか。
色んなお店に連れてってもらお!