「起きろ!」
『っ……いった〜!何すんのよ!』
「ふんっ、51秒の寝坊だ」
朝から細かいし、暴力的なんだよ!データヒョロ男!
ズカズカと年頃の女の子の部屋に入ってきて頭を叩いて起こすんだから。
「四年も起こされてるならいい加減学べ」
『四年も起こしに来るならいい加減に飽きて』
蓮二に枕元のクジラのぬいぐるみを投げつけてもう一度布団に潜った。
片手でクジラのぬいぐるみを受け止めた蓮二はわたしの頭に投げ返した。
「また殴るぞ」
『お好きにど〜ぞ』
遠慮なくもう一度殴られ、渋々布団から這い出た。
冬じゃないから制服に着替えるのはつらくないけど、ブラウスに小さいボタンが多くてめんどくさーい。
中学生になってからちゃんとブラジャーもつけるようになったし、ただ着替えるだけじゃ済まなくなったのがダルい。
「男がいても平気で脱ぐんだな」
『いや、蓮二が出て行ってよムッツリ。わたしの部屋だし脱ぐのは自由でしょ』
「意地悪をして悪かった。下で待ってるから早く来い」
階段を降りていく足音を聞いて、きちんとアイロンがかけられたブラウスに袖を通した。
蓮二が朝に起こしにくるようになったのは小6の新学期が始まって間もなくだった。
全国相次ぐ小学生を狙う不審者情報から集団登校を推奨されるようになった。
この頃から朝に弱いわたしを、お隣のよしみできちんと時間に迎えにくる蓮二が起こしに来ていた。
中々起きないわたしをあの手この手で起こしに来ていた蓮二だったが、桜が散る頃殴るようになった。
「名早くご飯食べて。蓮二くんが待ってるでしょ」
『どうせ新聞の広告欄まで読んでるんだからまだ大丈夫だって』
ヨーグルトにグラノーラを入れていつもの朝食をとる。
蓮二の家は日経派だから、読売をとってる我が家の新聞をお父さんより先に読みながら、わたしが準備を終わるのを待つ。
似たような記事を二回も読んで面白いかね、活字中毒の蓮二にしかわからないことだろうけど。
『いってきま〜す』
「いってきます」
「いってらっしゃい」
お母さんと起き抜けのお父さんに見送られ家を出る。
わたしを起こしたらさっさと家を出ればいいのに、蓮二はわたしと一緒に並んで登校する。
別に珍しいことでもないから何の疑問も浮かばない。
男女で登校してても何も恥ずかしい事はない。
蓮二やわたしの周りにそれを囃し立てる人がいないからだと思う。
蓮二は陽射しに弱いから日傘をさしているけど、暑いから先に行くなんて言わず、わたしが歩きやすいスピードで歩いてくれる。
だからと言って、会話に花を咲かせることもない。
一緒に登校する名目があるかのように隣を歩く。
「名、聞いてもいいか。何故、俺が広告欄まで読んでるのがわかった」
『何回も持ち替えてたらわかるよ、そりゃ』
新聞毎にライターは違えど、大体見出しになるニュースは同じだし、多分関心のある経済は日経の方が多いし。
速読できる蓮二のことだ、わたしの食事の時間くらいでほとんどの文字を追い切って、暇つぶしに広告も読んでるはずだ。
実際、下の方の広告を読むから一面に二度ほど持ち替える。
「よく観察しているな」
『まぁ、四年も見てますから』
「それでマウントを取った気でいるのか」
頭を小突かれ、これが蓮二なりのスキンシップなら直してもらわないと中々の暴力だと思うよ。
『何、にこにこしてるのよ』
「なんでもない。気にするな」
蓮二が変な人なのは相変わらずだが、今日は一段とよくわからない。
今日はいい一日だみたいな、まだ朝なのに充実した満足そうな顔しちゃって。
もしや今日はテニス部に良い結果が届く日なのでは!?それで蓮二がにこにこしているのか。納得。
『蓮二、部活頑張ってね!』
「フッ、意図はわからないがありがとう」
やっぱりどこか嬉しそうな蓮二がテニスコートへ消えていく姿を見送った。
幸村くんの代わりに花壇に水を撒く為にテニス部の朝練の時間に合わせて登校してるんだから、しっかりと手入れしなくちゃ。