「名、これを着てデートしてくれない?」


不二くんから女性向けのプチプラファッションを展開している店の紙袋を受け取った。

たまたま不二くん好みの服があったのかな?


不二くんって、どれも可愛いとか似合ってるとか言ってくれて、彼の好みをいまいち掴めていない。
だから、不二くんから着てほしいものを差し出されるなんて嬉しい!

イタいくらいのワンピースも、カジュアルも、スポーティなパンツも手ごたえを感じない。
不二くんのスマートな着こなしに合わせたほうがいいのか、次のデートの課題だった。


だって気付いたらカメラを構えてるんだから、変な服も着られないし、前もこの組み合わせだったねって言われたくない。

自分で難しくしているとは思ってるんだけど、これはわたしの意地みたいなところがあるから仕方がない。


不二くんの好みにワクワクしながらわたしは紙袋の中をその場で確認した。


『あれ、これ……』
「いいでしょ」


不二くんは得意そうにニコニコ笑っているけど、中身は正直笑えない。


『青学中の制服だよね……?』
「うん。あ、姉さんのだから盗んだり、変なサイトから買ったりしてないよ」
『わたしたち高二だよ』
「誤差だよ」


わたしと不二くんは中学が違う。
だからこの制服でデートは本来叶うことはないんだけど、姉弟という強みを生かしてゴリ押してきた。

制服デートなら高校でもいいじゃないと思うんだけど……。

コスプレくらいの恥ずかしさがこみ上げてくる。

青学の制服はかわいい。
小学生の頃に由美子お姉さんの青学の制服姿を見て憧れた。
あんな風に大きくなればなれるんだって、わたしもあの制服を着たお姉さんになりたいって思ったんだよな〜。

そんな想いがあるから、こんな機会は滅多にないんだけど、もう中学は卒業したし、地元の子にうっかり鉢合わせるなんてあったら死ぬしかない。


不二くんをチラッと見ると、絶対的な意地を感じる。


「名が嫌ならお家デートで手を打つよ」
『譲ってるの……?』
「テーマパークに行くつもりだったけど」
『お家デートがいいです』
「そう言ってくれると思ったよ」


元からお家デートのつもりだったと言わんばかりに彼はにこにこ笑った。
少しハメられた感……悔しい。


次のデートが雨だったらお家デートにしようという約束になった。
基本的にデートは晴れた日が多い気がするのに、次のデートだけはきっちり雨が降りそうな予感がする。


「名のお家に行くってなった時、僕は制服を着ていくからよろしくね」
『恥ずかしくないの?』
「学ランの高校がないわけでもないし、玄関に制服姿の僕がいたらドキッてしない?」


玄関に傘を持った学ラン姿の不二くんが立っていたら、確かにドキッとするかも。
気分を下げるグレーの中に、雨粒を受けて淡く光る八重の白い花のように、不二くんは笑っているんだろうなぁ。って、余裕で想像ができる。


「僕にはこっそり部屋で試着して鏡の前をクルクルする名が頭に浮かぶよ」


しそう!いや、絶対にする。不二くんにはお見通しだ。
急に嫌な汗が出てきた。
見透かしたわたしの行動が不二くんのキュンポイントだったら、うずくまって三日くらい凹むかもしれない。


「楽しみだねぇ」
『う、うん』


わたしもデートは楽しみなはずなのに、紙袋を握る手がやたらとビショビショになっている。


デートなんだから雨は絶対に降らないで欲しいと、願うばかりだ。