「も〜、俺がいないところでベロベロに酔うのはやめてっていつも言ってるだろう」
『えへへ〜』
久しぶりに高校時代の友達と集まって、お箸が転がっても笑えるくらい楽しい時間を過ごした。
お酒がなくたって楽しい仲に、お酒が入るとみんな調子よく飲んでしまう。
普段飲まない子も一杯だけ。
甘めのカクテルとコスメや恋バナや思い出話。
話題が尽きることなく話していたら、テンション上がってベロベロ。みんな酔ってることに気付いてないくらい。
車で来てた子だけシラフだから、みんなの彼氏や旦那に連絡を入れてくれた。
わたしにはそんな男の人が居ないから、ずーっと近くに住んでる同級生の精市が迎えに来てくれる。
友達も当たり前に親より精市に連絡を入れてくれる。
すぐに精市は車で迎えに来てくれたらしく、わたしを抱えて、友達にまともにバイバイも言えずお店から出てしまった。
「目が覚めたら知らない男とホテルに居たかも知れないんだよ。わかってる?」
『は〜い』
「酔っ払いに何言ってもわかんないか」
黙って助手席に乗せて、ラジオから流れる何となく耳に覚えのある歌をデタラメに歌っても、精市は怒鳴ることもなかった。
「歩ける?」
『へ〜き』
「ダメだね」
肩を貸してくれて、千鳥足のわたしをしっかり支えられるから、学生時代からずっと鍛えてるんだね。
精市は当たり前のようにわたしの家まで送ってくれて、カバンの中のどこに鍵が入ってるかまで把握している。
勝手知ったる他人の家。
手探りでライトも点けて、それだけ精市に世話になってるなんて、恥ずかしい話だ。
ソファまで連れて行ってくれた上に、冷たいお水も用意してくれて、こんなにいい友達がいて、わたしは幸せだなぁ。
お礼をしなきゃ。また、あそこのケーキでいいかな。
限定でメロンのタルトが出てたからそれがいいかも。
『精市だ〜いすき』
「俺も好きだよ。シラフのときにも言ってほしいな」
『はずかしぃ〜』
「今日の名本当に大丈夫?泥酔だね」
精市の大きくて優しい手が何度も頭を撫でてくれる。
その度にわたしは赤ちゃんのように笑った。
でも、精市の顔は心配そうで、わたしの顔を覗き込んでいた。
すると精市は彼のカバンから紙とペンを持って、目の前のテーブルに置いた。
「自分の名前書ける?」
『と〜ぜん!』
精市からペンを奪い、精市が指をさす場所にしっかりヘロヘロの名前を書いた。
「……うん。ギリ読めるね。これ何かわかる?」
『ペラペラの茶色い紙!』
「そうだね。よく見て」
精市はわたしの顔の前まで紙を持ってきて、わたしは目をぐっと凝らした。
紙は大きな枠に囲まれて、中に小さいマス目があって、わたしの名前が書き込まれている。
その大枠の上の方に、少し太めの文字で何か書いてある。
『婚……姻届?』
「うん」
『婚姻届ぇ!?』
「夜だよ。静かにしてね」
酔いが一気に覚めた。
けど、身体は酔っ払いだから、婚姻届に手を伸ばしたつもりでも距離が全く測れずに空振りをした。
「次、酔っ払って俺を呼んだら役所に届けるからね」
『わたしの名前だけじゃ無理じゃ……』
「はい。俺の名前も書いた。名の実印を隠してる場所も知ってるからね」
精市は目の前で自身の実印を押した。
わたしの実印の隠し場所であるキッチンに足を向けたので、今度はしっかりと精市の袖を掴んだ。
わたしの泥酔で精市の人生を賭ける必要なんてないよ。
お酒は三杯までって自制するから!
なんだかアルコール中毒者のような発言だな⁉
いやでも、精市は結構本気の方だ。
次があったら、真田くんと柳くんや、わたしの友達を立会人にして、連れてくるつもりだ。
精市を怒らせないようにしなきゃ……。
『ゴキが出ても精市を呼ばないからぁ〜』
「え、なんの話?まだ酔ってるの?」
『え、違うの?』
「うーん。この話は明日にしようか。お化粧を落としてもう寝よう」
精市はごろんとソファに寝転がった。
お迎えに来た日や精市が夕飯に転がり込んでくる日は、大体ソファで寝て、朝ごはんにパンケーキを食べて帰る。
お迎えに来てくれた時は仕方ないって気持ちだけど、晩御飯だけに食べに来る時は理不尽さを感じる。
車で来るのにお酒飲むんだ。泊まる気満々なのよね。
『精市、あれ本当に届けるつもり?』
「君次第かなぁ」
ソファに仰向けのまま精市はにやりと笑った。
今のうちにこの婚姻届に水でもかけておこうかな。
て、あれ?机の上に無いと思ったら、枕にしてるクッションの下に隠してる!
ちゃっかりしてるなぁ本当に!