「ほんと悪趣味」
『これも需要なんで』


今月の壁新聞に掲載した幸村くんの振った人数。退院後順調に記録を更新している。

夏休み明けの特別号に幸村くんに彼女はいないと書いたら、ワンチャンを信じた女の子たちが次々と彼を呼び出すようになった。


人数に関して彼から修正が入ることがないあたり、それなりに集計できているのだろう。

彼女がいないことも幸村くんを煽った時にわかった。
同性の恋人がいたとしても、彼女がいない事実があればいい。


そろそろネタとしてもつまらないし、無理だと悟って告白をする人数も減るだろう。
ゴシップは鮮度が命だと思うから、新しい企画にニュージェネの好きなタイプとか集めようかな。


新しいネタを練る間も幸村くんは不機嫌そうにわたしの前に立っている。

幸村くんの彼女になる人は、この手をつけられない不機嫌に付き合うのは大変だろうなぁ。
テニス部のメンバーだってそっとしておこうとするし。
そもそも幸村くんが機嫌が悪いことなんて滅多にないし、扱い方がわからないんだろうな。


眉間にシワを寄せた幸村くんは腕を組んだ。


わたしは幸村くんに告白した人数を知っていても、どんな子が告白したのかまでは知らない。
そんなことを記事にしたらイジメになってしまう。
だから、どんなかわいい子を振っているのか知らない分わたしも興味はある。


「どうすればやめてくれるんだい?」
『お金……?あっ、手を上げないで』


おっかない。幸村くんって無言で拳を振り上げるんだ。


『幸村くんに恋人ができたらやめるよ』
「必ずと約束できる?」
『もちろん。でも、恋人ができたら噂になるだろうし、根も葉もない噂の発端がわたしじゃないって幸村くんはわかるでしょ?』
「まぁね」


幸村くんに付きまとって数年、わたしが彼を、彼もわたしに詳しくなってしまった。
わたしが何を言っても幸村くんは真に受けないけど、わたしについての悪口も真に受けることもない。


『幸村くんから告白されたら振る女の子なんて居ないよ』
「はぁ。そんなに俺が素敵に見えるのかい?」


わたしは頷くと、幸村くんは呆れたと言わんばかりに頭を抱えた。

実際素敵だよ。
優勝続きのテニス部を率いる部長で、植物を愛して、顔が良くて性格もいい。
幸村くんが2人いても世の中は取り合いをするはず。

試合中のクールな表情もかっこよくて好きだけど、そこから角が取れて友達と笑い合ってる方が好き。
幸村くんと同級生ならそのギャップはみんな知っているから、コロッと恋に落ちる。


そして、じゃあと幸村くんは口を開いた。


「姓、俺と付き合ってもらえませんか?」
『え?』
「振る女の子はいないんだろ。君も例に漏れずに」


幸村くんは口角を上げた。
わたしの矛盾を突いてまで反撃をするか。駆け引きが上手いテニスプレイヤーだこと。


『言葉のあやってやつで……』
「いいよ、振っても。その代わり俺は振られたことを部活で話題にするから。その結果はわかるよね?」


幸村くんを振った女の子探しになることは明白。
それは問題じゃなくて、今後幸村くんを追うとき、振られていく女の子を見る罪悪感が増していく。

いやでも、幸村くんはわたしにつきまとわれないための作戦ならよくできている。
付き合えば記事にしない約束だし、付き合わなくても今後の記事が書きづらくなる。
なんてことをしてくれるんだ。


「俺からの告白で付き合わない女の子はいないんだよね」
『あー、あー。言ってません聞いてません』
「付き合わない女の子はいないんだよね!」
『わたしは例外です!』
「姓の彼氏になりたいな!」
『あーあー!』


なんでここぞとばかりに声を張るんだ!
誰かが聞き耳を立ててたらどうするんだよ。その役回りはいつもわたしだけどさ!


「俺は姓のことが好きなのにどうして付き合わないんだい?」
『付き合わないよ!?いつもと立場が逆になってるのに、よくそんなことが言えるね』
「こんな気持ちだったんだね。悔しいけど負ける気がしないな」


幸村くんの反骨の精神も自分に向けられるとめんどくさいな。

幸村くんにフラれた女の子は泣いて気持ちを落ち着かせて整理をするのに、彼に更々諦める気がないことにびっくりする。


「自分の発言に責任を持って」
『やだやだ!ごめんなさい!二度とゴシップなんて書かないから!』
「俺に恥をかかせる気かい?」
『ご自由にどうぞ』
「じゃあ姓と付き合ってること言いまくるから」
『認めてないー!』


この日から幸村くんを含めて、他の人のゴシップを書くことを全てやめた。
懲りたしこれが報いならきちんと受け止める。
悪役が痛い目を見て反省しましたチャンチャンで、物語は終わるはず。

なのに、幸村くんに本気で言い寄られる日も、この日から始まった。
本当にしつこい王子様だ。誰がこの人に憧れるんだ。

幸村くんは姓さんが好きだも、幸村くんの態度から勝手に広まっていった。
そして告白もずいぶん減ったらしい。


「噂好きが噂に苦しんでるなんて面白いね」
『復讐も済んだなら、いい加減やめてもらえると助かります』
「あれ?俺、姓に好きって言ってないっけ?好きだよ」
『あの、何度も聞いてるから、ほんと、反省してるんで』
「顔真っ赤。かわいい〜。反省してるってわかってるよ。これは俺の気持ちの話だから」


目の前でキラキラ王子様スマイルが眩しくて、すっごいブサイクな顔になってしまう。


「ちょっとぐらい俺のこと好きになったでしょ」
『元々好きな方だよ』
「え?」


幸村くんは面食らったのか、わたしの顔を見たままフリーズしてしまった。

本気で嫌いならもうちょっと拒絶したり避けたりすると思うし、幸村くんに遊ばれてても嫌じゃないくらいには好き。
別に彼とまともな出会いをしていてもこういう接し方をしていると思う。


「ふふ、そうかい。ふふっ」


幸村くんは顔を突っ伏して肩を揺らして笑ってる。
ちょっとキモ……。