『仁王だろ、わたしの写真を幸村に送ってるの』
「プリッ」


幸村のスマホの画面がちらりと見えた時だった。
ロック画面は男にしたら珍しい花の写真だったけど、ホーム画面は見間違いでなければわたしの寝顔だった。

スマホの画面を見たなんて思われたくなかったから、こうやって仁王に問い詰めている。


ブン太と仁王と同じクラスで、ブン太は隣の席だ。仁王はわたしより少し前の席。
頬杖をついて、うとうとしてる割と真正面からの写真はブン太からは撮れない。

だから仁王問い詰めれば、意味のわからない返答が来たからこれは肯定と捉えのよう。


『他にも渡したりしたの?』
「おん。幸村が見たこともないくらいにやけるのが面白ぉてのぅ」
『わたしは笑えんわ』


隠し撮りだし、よく授業中に写真が撮れるな。
ペテン師なんて言われてるし、人の目を欺くぐらい彼には簡単なんだろうけど。


「いやしかし、幸村がお前さんに惚れた時のリアクションには勝てんな」
『はぁ』


思い出し笑いでもしてるのか、仁王はにやけていた。


「ほれ、中一も同じクラスじゃたろ?そんときに、お前さんを見て幸村は「ヤバイ」って、こんな顔しての」


よほど面白かったのか、鮮明に覚えているらしく仁王は頼んでもないのに幸村の真似をしてくれた。
見事なまでのイリュージョン。無駄遣いだ。


「仁王、あの子なんていうの?姓名さん。めちゃくちゃ好き」


幸村になった仁王の手がわたしに伸びてきて、そっとその手を払った。


『そんなこと言ったの?』
「脚色はしとらんぜよ。ときめいたか?」
『いや、全然。むしろちょっと気色悪い』
「つまらん」


仁王はイリュージョンを解くと立ち上がった。
ポケットに手を突っ込み、猫背で気怠そうに教室の扉を開ける。


「お前の一目惚れは気色悪いじゃと」


入れ違いで幸村が入ってきた。

いつもの柔らかな微笑みはなく、苦虫を噛み潰したように歪んでいた。

黙り込んだまま、さっきまで仁王が座っていた椅子に座る。
長い沈黙が続く。
こんな幸村を見たことがない。

いつも笑って追いかけてきて、抱きつくわ、手をいじるわ、髪を弄ぶわ、好きだの付き合ってだのうるさいのに、今は何もしてこない。

わたしは沈黙が耐えられなくなり口を開く。


『今の幸村は気色悪いとか思ってないから。その好意を持ってくれてるのは嬉しいから』


その場のノリで幸村を傷付けたのがわたしの心を痛めつけた。
口がカラカラになる。
絞るようにしか声が出ず、妙に緊張して手に力が入る。


『幸村のことちゃんと好きだから』
「名?」


目を合わせずに言ったのがまずかった。
名前を呼ばれて恐る恐る幸村の顔を見れば、これ以上ないくらいにニヤニヤしていた。

しまった、謀られた。


「両想いか嬉しいなぁ」
『やっぱ、気色悪いです』
「照れ隠し?やだなぁ、証言はとれたよ」


ニヤニヤと笑い廊下から手を振る、赤髪と銀髪。
くそぅ、またはめられた!


「名の気持ち受け取ったから」
『不良品なので返品願います』
「なのに逃げ腰だね」


お互いに椅子から立ち上がり、幸村が距離を詰める前に走り出す。


『ブン太も仁王も絶対許さないから!!』
「プピーナ」
「がんば」
「名!俺の気持ちを返してあげる」
『押し売りは結構です!!』