幸村に両想いを確信されてから、余計にスキンシップが激しくなった気がする。
匂いを嗅がれたり、頬を擦り合わせたり。
鳥肌が立つぐらいの甘い言葉をささやかれたり。

ラブコメのヒロインかよ。って笑ってしまうぐらいの日々。


季節は半袖でしかいられないぐらいの暑い夏。

私立だから嬉しいぐらいに効きすぎてるエアコン。寒い。
だから、カーディガンを一枚、ブラウスの上から着ているんだけど、それを見て喜ぶ奴がいる。


「寒いんだね。抱きしめてあげる」


幸村を羽織る羽目になる。

それがあまりにも日常的すぎて、わたしもリアクションがなければ、周りも「今日もですか仲良しですね」みたいな雰囲気。

慣れるな。幸村の容姿に絆されてる。


「名って今日部活?」
『うん。一緒には帰らないよ』
「えー」


今日は家庭科部の活動日。
食材は朝来た時に冷房に入れたし、何事もなければ上手くいくはず。


お菓子とか料理とか、台所に立つのはとても好きだ。
自分の思った味が好きなように作れるって幸せ。


「ほい、幸村くん。家庭科部からの差し入れ」


部活の休憩時間。
丸井がいつも誰かからお菓子をもらってくる。
俺たちは手作りは受け取らないのに、ブン太は受け取ったりする。
何入ってるかわからないよって言えば、家庭科部からしか貰わないと言っていた。


仲良しだから、名が丸井に。

いやでも、俺だって欲しいと言えば余ったからとか言って、そのうち何も言わなくてもくれるようになった。
次の日、美味しかったと告げると得意げに口元を緩ませる名が最高に可愛い。


「名からなの?」
「いや。名は渡さないだろってあいつの友達が、一個名が作ったのパクってきたってよぃ」


よく冷えたプリンとプラスチックのスプーンを受け取る。
蒸しプリンだ。ゼラチンで固めるやつじゃなくて、結構本格的で驚いている。


「普段はクッキーとかカップケーキなのに、こういうのも作るんだ」


先週投げつけられたのはレモンのアイシングクッキーだったかな。
チョコレートたっぷりのクッキーだとか、サツマイモとりんごの蒸しケーキだとか。
名の作るお菓子は美味しい。

今日のこのプリンもバニラと卵の風味が、その辺のケーキ屋のプリンよりもずっと美味しい。


いつもはあっという間に食べきる丸井が手を止めて不思議そうに俺を見ている。


「先週作ってたのはアップルパイだったけど」
「え?」
「その前はシャーベットとか、パンとか焼いたりだとか」


次々と丸井が上げていくメニューに俺が貰うものと合致しない。
俺は全く別のものをもらっている?


「この炎天下だ。日持ちを考えてるのではないか?」
「わっ、蓮二かびっくりするな」
「すまない」
「名はなんだかんだで、ちゃんと幸村くんのことが好きみたいだな」


丸井も蓮二もニヤニヤと笑う。


今日は無理にでも引き止めて聞いてみよう。