今日は部活に来いよと仁王を注意しに行った日だった。

教室の奥の席で、窓に寄りかかって眠る女の子に目を奪われた。
女性を見ると男は瞳孔が開く言うらしいけど、角膜に焼き付けたいほどあの子に惹かれた。


「ヤバイ」
「ん?」


要件も言わずどこかを見つめてる俺に疑問を抱いたのか、仁王は振り返り視線を合わせた。


「あの子なんていうの?」
「姓名ナリ。惚れたか?」
「姓名さん、めちゃくちゃ好き」


彼女の美しいとか、かわいいとかそういうことを見て好きになったわけじゃなくて、もっと運命みたいな言葉がやたらと似合った。
そんな子に出会ったら射抜かれるとは聞いていたけど、槍に突かれるくらいの衝撃があるとは。


彼女も俺を好きにならないかな。

結構俺に話しかけてくる女子はいたし、学年を重ねるごとにそれは増えて、もはやアイドル状態だった。
そんなミーハーな子に混ざることなく名は過ごしていた。

彼女と丸井が仲がいいのには、嫉妬しかけたけど、彼女のそぶりは分け隔てがないから、俺にもあの態度かもしれないとガッカリした。


「幸村くん名のことが好きなの」
「うん。結構な片思い」
「聞いてこようか?」
「それは、ちょっと怖いなぁ」


転機だと思った。

高校に上がり、名と丸井と仁王は同じクラスになった。
俺だって青春を部活ばかりに捧げたくない。
だから丸井に協力してもらって、名の気持ちだけでも知ろうと思った。


しつこい。まぁ、そうかも。あれだけ勝ちに執着したし、一途でもある。
顔も性格もいい。照れる。
特別視される要素がない。あるよ。どこがとは言えないけど、君が気になって気になって仕方がないんだよ。


『まぁ、しつこいくらい好きだって態度で示されたら意識するかもしれないけど』
「そう」


振り返った名は目を丸くしていた。
俺が聞いてないことを前提に話してたんだから、俺の登場には驚くよね。

バツが悪いと、視線を逸らされる。


嫌いだとか、頑張り次第で意識してもらえるのか。頑張って追いかけてみようかな。


「名」
『最近抱きつくより、手を繋ぐほうが多くなったね』
「抱きついたほうが嬉しい?」
『いや?』


抱きつくよりも手を繋ぐほうが妙に緊張する。恋人みたいだし。


これでもまだ付き合ってない。
好きだって言うばかりで、付き合ってとはなんだか言いづらい。
両思いとわかっても、名は腕からするりと逃げていきそうで、告げるのがこわい。


『精市くん』


名は時々俺をそう呼ぶ。
時々だから、呼ばれるだけで胸が高鳴る。


『あれだけしつこかったのに、ちょっと寂しいよ』


淡々と言う割に耳が真っ赤だ。


あー!この子は本当に可愛い。いじらしい!
平静をいくら保とうと頑張っても、触れれば笑えば名前を呼べば簡単に心をかき回される。


繋いだ手を解いて抱きしめる。


どうしようもなく好きだ。


「結婚しよう」
『順番おかしいって!』


END