「やっぱ不二くん名のこと見てるよ」
『気のせいだって』


それがね、見てるんだよ。


姓さんはなんだか目が離せない子。
おっちょこちょいとか、呆けてるわけではないんだけど、ちょっとしたことでも真剣になれる子。

おはようって言えば、おはようって笑って返してくれるし。
持ちきれないほどの荷物を持たされても、文句のひとつも言わないし。
黒板の上の文字は飛び跳ねて消そうとするし。

かわいいなって、つい見てしまう。
本人には全く気付かれていないのに、彼女の友達に気付かれてしまった。

随分ミーハーな子なのか、昼食の話題はいつも僕のことだ。


姓さんを目で追ってるうちに、これが恋だと気付いてしまった。
熱い視線を送っているのに、彼女は「気のせいだよ」って言って意識すらしてくれない。


この間意を決して、一緒にお弁当を食べたし、僕のお箸で姓さんの口に卵焼きを放り込んでしまった。
何てことをしてしまったんだと思う反面、目をつむって小さく口を開く姓さんに後戻りはできない何かを感じてしまった。


「スマッシュは簡単なんだけどなぁ」


こうやって部活で汗を流す姿を姓さんは見てくれないし、知ってもくれないんだろうな。


「不二、悩みか?」
「あぁ、乾。まぁ、そんなところ」
「天才の悩みか。面白い」


今日も僕のデータ収集かい?飽きないなぁ。


「姓のことか」
「……」


ピクリと体が少し反応したことを乾は見逃してくれなかった。

乾のことだ。全校生徒の何かしらの情報は握っている。
もちろん姓さんのことだって、学校にあるデータくらいは握ってるだろう。


「好きな人とか恋人はいそうかい?」
「不二の好きな人がわかったから教えてやろう。いない。過去に好きな奴も恋人もいた記録がない」
「そう」


あんまり恋愛に興味がないのかな。
じゃあ、僕がどんな手を使っても姓さんは意識してくれない?

急に暗雲が心を覆う。
一雨、いや、嵐がきそうかな。
僕は桃城じゃないから予想はできないな。


「姓がスマッシュを打たないとカウンターができないな」
「ふふっ、僕のラリーも拾ってくれないけどね」


よし、今は部活中だ。私情を挟むのはここまでにしよう。