「名ちゃん、今日もかわいいね」
『不二くんも今日も素敵ですね』


最近、不二くんはよく話しかけてくれる。
名前も気付いたら下の名前で呼ばれるようになっていた。


かわいいね。お弁当一緒に食べよう。よければ一緒に帰らない?名ちゃんの好きなもの教えて?僕のこと特別に教えてあげる。


「ほら、不二くん名のこと好きじゃない」
『みんなにもあんな感じだって』


友達のニヤニヤが止まらない。


友達はついこの間彼氏ができて、お昼ご飯は一緒に食べるんだと、突然置き去りにされた。
その隙間に不二くんがするりと微笑みながら入ってきた。


物静かと思っていたのだけど、よく喋る人だ。


「僕、辛いものが好きなんだ」
『あー、不二くんが時々ピリピリするのそのせいかな。お尻痛くならないの?』
「なったことないかな。名ちゃんは辛いの平気?」
『からいはね、つらいんだよ」
「苦手なんだね。覚えておくよ」


こうやって二人で過ごすことが多くなって、にわかに付き合ってるんじゃないかって噂が立った。
わたしは否定をするけど、不二くんは肯定と取れるような微笑みをするばかり。

わたしよりもずっと顔の知れている不二くんがこうなものだから、噂が消えることなく、付き合っているということで落ち着いてしまった。


不二くんは王子様だ、と憧れや好意を抱いている女子は多い。

そんな彼にわたしが《引っ付いている》と目の仇にされているらしい。
引っ付かれているのはわたしのほうだ。とも言いたいけど、自惚れるのも大概にしろよって感じ。


『不二くんは平気なの?こういう噂』
「名ちゃんとなら構わないかな」
『そうですか』
「まぁ、ちょっと僕を応援する子が過激になってきたかな」
『はぁ、』


目を開き、凛とした不二くんの顔。
穏やかな春の丘に、風が止んで、来る何かに備えたような雰囲気。


「名ちゃんって好きな人いる?」
『今はいないけど』
「今は」
『幼稚園とかの話だよ。ませて好きな子作るじゃん』
「そっか」


不二くんはいつもの穏やかな雰囲気に戻った。


「好みのタイプとかあるの?」
『好きな人がタイプになる感じかなぁ。あばたもえくぼって感じ』
「夢中になっちゃう感じなんだ」


わたしは頷いて会話を終わらせる。
あまり恋愛の話とかは得意ではないのだ。

この時ばかりは、恋に恋するミーハーが羨ましい。


不二くんはやたらと恋愛について話そうとる。
お姉さんの占いでのわたしとの相性だとか、趣味が合うねだとか。


いい加減、不二くんはわたしとの距離を詰めようとしてるのには気付いている。
下心に気付いたらからといって、これからは仲良く出来ませんとも言えないし、ただの勘違いかもしれない。


「名は不二くんのことを考えてる」
『まぁね』
「やだ、名が肯定した」


友達はひどく驚いた表情をした。


「恋する乙女ね!協力しちゃう」
『そういうことじゃないんだけど……』


彼氏ができたからって、先輩面しちゃって。


『それだったら不二くんの相談に乗ってあげたら?確信があるんでしょ?』
「そうだね!いってくる!」
『えっ』


今の彼女には冗談に聞こえなかったらしい。

不二くんを連れてどこかへ行ってしまった。
彼氏に勘違いされても知らないからね。