「不二くん、名のこと好きなんでしょ」
「わかりやすかったかな」
「私が気付いてもねぇ……」
名ちゃんの友達に、彼女についてどう思っているか問い詰められてしまった。
キラキラした顔で、彼女のことに首を突っ込まないと気が済まないらしい。
「焦らせるようかもしれないけど、名って結構慕われてるのよ?」
「そうなのかい?」
あまり名ちゃんが男子と話してるところは見たことがない。
特別かわいいわけでも、頭がいいだとか背が小さいだとか目立つ何かを持っているわけではない。
なのに、惹かれてしまうのは、彼女の独特な雰囲気にあるのだろうか。
あの、何でもお願い事は聞いてくれそうな雰囲気。
困った顔をしながら受け入れる優しさ。
気があるんじゃないかって勘違いしてしまいそうになる。
まぁ、僕もその一人なんだけど。
特別男子にそうしてるわけではないのは気付いているし、男女上下関係なく特定の人にだけ絞らないのが彼女らしい。
「早く告白しないと、名は早い者勝ちだよ。よく見てるなら尚更わかるでしょ?」
「うーん」
僕の中にもある懸念。
名ちゃんのことだから、告白されたら振って傷付けるのを恐れて、飲んでしまう可能性が大いにある。
友達に彼氏ができたから、わたしもと、雰囲気で作ってしまいそうなところも。
「毎日好きだとか、かわいいだとか、気の合う人ってアピールしてるんだけどなぁ」
「名は不二くんの好意には気付いてるけど」
「そうなのかい」
舞い上がりそうになるのをグッと抑える。
鈍感ってわけではないんだ。
ちゃんと、僕の気持ちはじわじわと伝わっていたんだ。
だからといって、名ちゃんが僕のことを好きになったわけではないから。
「ちゃんと、彼女になってくださいって言わないと、あの子スルーしちゃうかもよ」
的確なアドバイスをありがとう。
名の友達は彼氏くんを見かけるとそちらに走って行ってしまった。
ポケットの携帯が震える。
《告白するなら今日の夕方がベストよ》
占い好きの姉さんからのメール。
姉さんは僕の恋愛相談に乗ってくれる人。応援もしてくれる。
善は急げってことかもしれない。
教室に戻って、名ちゃんに一緒に帰ろうと誘おう。
自分の教室の前に来た時に、何かざわついてる気がした。
「姓、好きだ!」
その叫びに慌てて僕も様子を見る。
あれはバスケ部のエースじゃないか。
背が高くて、汗がキラキラ光るようなイケメン。
女子に人気だけど、そのあたりで良い噂は聞かない。
なんでこんな人のいる教室で、告白だなんて余程自信があるのだろうか。
おそらく携帯をいじっていた名ちゃんは、きょとんとしている。
ダメ、受けちゃダメ。名ちゃんは僕の。
名ちゃんはにこりと微笑む。
OKしちゃうの。待ってよ。
『ありがとうございます』
バスケ部のエースは名ちゃんを抱きしめる。
やっぱり名ちゃんは早い者勝ちだったのか。
『何するの!』
普段の彼女から考えられないくらいの大声と乾いた音に囃し立てていた声が止んだ。
目を丸くしたバスケ部のエースは平手打ちされた頬を押さえる。
「何って恋人なんだからこうしたって」
『そういう関係になったつもりはないんだけど!』
名ちゃんはもうすぐ授業が始まるというのに教室を出て行ってしまった。
取り残されたバスケ部のエースは唇を噛み締めている。
ざまあみろ。だけど、これって僕にも降りかかることなのでは。
姉さん、本当に今日が告白するチャンスなのかい?