誕生日に贈られた花は花びらを散らすことなくこうべを垂れて眠りについた。
切り花はかわいそうだ。子孫を残すために咲いたというのに。
花を捨て、活けていた瓶をどうするかと悩む。
あの紫の花があるだけで部屋が少しだけ明るくなった。
だから造花か何か挿しておこうかな。
随分花束一つで女の子らしくなるものだ。自分に少しだけ驚いている。
何かヒントはと屋上の花壇を覗き込む。
可愛らしい小花が風に揺れている。
「苗字?」
『幸村』
振り向けばジョーロを持った幸村の姿。
「花、好きなのかい?」
『そうでもないけど、誕生日に貰った花束の花瓶に何か活けようと思って。そのアイデア探し』
「じゃあ、この小花はどうかな。リナリアって言うんだけど」
花壇の一角に植わった白い小花。
『幸村っぽいね』
あまり幸村のこと知らないけど、風に身を揺らしている姿が幸村っぽい。
わたしの呟きに幸村はお腹を抱えて笑いだした。
そんなに花に例えることが面白いことだろうか。
「まぁ、俺の誕生日の花だし俺っぽいのもあながち間違ってないかな」
『偶然だね』
「そういうこともあるんだね。花言葉はね、《この恋に気付いて》だったかな」
幸村はリナリアを手折り、その束をわたしに差し出した。
花言葉を聞いてから差し出されると困ってしまう。知らないことにしてしまえばいいんだけど。
手折られて行き場のない花が可哀想なので、ティッシュを湿らせて切り口に巻き付け、コンビニの袋に仕舞った。
水やりを始めた幸村。部活は未だにできないらしい。
『幸村って写真だけでも花がわかったりする?』
「どうかな。見せて」
柳が幸村は花に詳しいと言っていたのを思い出し、携帯に保存したプレゼントの写真を見せた。
外が明るいのか、影を作って画面を覗き込む。
「オダマキかな」
やっとわかった花の名前。
「誰から貰ったの?」
『わかんないんだよね。朝、机の上に置いてあってさ』
「ふーん」
水やりを終えて、ジョーロを片付けに行った幸村。
わたしもカバンを持って立ち上がる。
しばらくはわたしの部屋の彩りにリナリアが咲く。
「下まで一緒に行くかい?」
『あ、うん』
少し前を歩く幸村の背中を追いかける。
オダマキの花言葉も幸村は知っていたりするのだろうか。
「君は」
わたしが口を開こうとした時に先に幸村の口から言葉が発せられた。
「知らない奴からプレゼントを貰うのかい?」
振り返った幸村の顔はひどく歪んでいた。
『直接貰うなら受け取らなかったよ。それに花が可哀想だし』
もうその花は萎れて捨ててしまったけれど。
「花を受け取るのは気をつけたほうがいいよ。花には意味があるから」
二段飛ばしで幸村は階段を駆け下りていった。
静かな階段に置き去りにされた。
オダマキの花言葉、聞けなかった。