放課後、幸村くんに一緒に帰ろうと肩を抱かれ勝手に歩き出される。
幸村くんが賑わう廊下を歩けば、自然と道が開かれ、幸村くんに憧れの眼差し、わたしには羨望と嫉妬の眼差しが刺さる。

やめろ、やめろ!わたしは何もしてないからな。
たった116回のキスのためだからな!
数学の課題のためだったんだからな!


辿り着いたのは物理準備室。無用心にも鍵がかかっていない。
確かに、倉庫みたいで価値があるかわからないものが乱雑に置かれてるけど、一応天体望遠鏡が置いてあるんだからね。しっかりしてよ。


椅子を二脚引いて、脚を揃えて二人で向き合って、幸村くんから伝わる微妙な緊張がわたしにも移ってむず痒い。


「姓」
『なんでしょう』
「気持ち、まとまったよ」


彼は柔らかく微笑む。


「名、好きだ」


わたしの膝に置かれた両手をとり、愛おしそうに幸村くんは撫でた。
その光景に、心臓が撫でられたかのようにこそばゆい。


「結局のところを言うとね、恋はわからない。赤也と丸井に聞くと、それが恋だって言うんだ。キスを受け入れるなら、脈ナシじゃないとも言うんだ。
ねぇ、なんで姓は俺とキスするの?」


なんで。なんでしょうか。
数学の課題を見せてもらう条件だったからだろうか。
もしかして、キスが嫌じゃない?
だって、自分の力か白紙のまま提出できたじゃないか。

でも、あの時わたしは唇にされないと高を括っていたし、ファーストキスだったわけだし。

もし、この条件が柳先生から突き出されていたら受け入れていただろうか。
多分、自分で頑張ると憐れみ視線を送られながらペンを動かした。


『幸村くんとキスが嫌じゃない』


グチャグチャのおもちゃ箱の中からお気に入りを見つけ出した結論。


「そうかい」


幸村くんは目を細めた。


「俺のことは好きかい?」
『んー、それはわかんない』
「じゃあ、好きにさせてあげる」


幸村くんはわたしを抱き寄せた。


「数多な星を知るより、一つの俺を知る方が簡単だよ」


そう囁き、わたしの額に口付ける。


『115回?』
「違う違う。15回目」


まぶた、頬、鼻、軽く口付けられてくすぐったい。


「もう数えるのはおしまい」


優しく重ねられた唇が今までにないくらい甘い味がして、爪先まで熱を帯びた。

意識するとこんなにも感覚神経は一人に向くものなのだろうか。
熱を求め合う身体、優しい香りに満たされる肺、焼きつく彼の姿、名前を呼ばれるたびにくすぐったくなる背中。
途端に幸村くんに全てを奪われた気がした。


「彼女になってくれるよね?」
『うん。よろしくお願いします』


END