「本当に姓が星座に詳しいと思ってなかった」


ジトリと幸村くんを睨む。
アホの子は認めるけど、胸が張れるほどなんだから詳しいに決まってる。

幸村くんに懐中電灯で手元を照らしながら天体望遠鏡を片付ける。

さっきわたしを呼びに来た先生が幸村くんに気付いて「メッ」と一言しか言わなかったことにも不満がある。
あんなに簡単な注意だけで、優等生と言うのは便利なものなのかもしれない。
わたしは勝手に残ったら反省文送りだったのに。


「遅くなったし送っていくよ」
『いいよ。いつもは一人だし』
「ダメ。変質者が現れたらどうするの」
『えっ、どちらかといえば幸村くんも変質ふぁ』


頬を思い切り抓られた。
痛い痛い!利き手で、ただでさえラケット握るから握力あるくせに!パワーS!
あれは病み上がりだから、実はパワーSSでカンストしてんじゃないの!?


「一緒に帰ろう」


わたしは首を縦に振る。
とんでもない奴!力でねじ伏せられたら逆らえない。
これが男女の差というものか。冗談じゃない。


幸村くんは、天体望遠鏡の入ったケースとブランケットを持って両手が塞がっているから、屋上の扉を開けてあげる。
階段も廊下も消灯されているから、懐中電灯電灯で足元を照らす。


「もしかして姓が一人の時はこの真っ暗な中歩くの?」
『うん。夜目だし、3年も通ってれば慣れっこだよ』


幸村くんは心配性だなぁ。


「襲っても誰も来ないね」
『幸村くん、段々オラついてきたね』
「姓にはなんだかそういう気分なんだよ」


わからない人だなぁ。


「不思議なんだよ。姓と知り合ったのは二学期からなのに」


3年になって初めて幸村くんと同じクラスになったけど、幸村くんは一学期の間は入院していて顔なんて合わせたことなかった。
それに幸村くんとわたしの席は離れていて、まともに話したのは昨日が初めてみたいなもの。

幸村くんは噂通り優しくてかっこいい人だなと思っていたし、クラスメイト以外接点のないわたしにも優しくしてくれてマジ聖人とか思ってた。
落ち着いた見た目に反して、中学生らしいイタズラっ子な提案に冗談と思って飲んでしまって、キス魔と発覚したときはびっくりしたけど。


「好きなんだよ、姓のこと。多分。自分のものにしたいと思ってる」
『さっきも聞いたよ』


ガラガラと重い物理準備室を開けて電気を点ける。
真っ暗な中に居たから目が眩む。


「姓は俺のものにならないの?」


明るくなった中でみた幸村くんの目は少し寂しげに揺れていた。


『わたしはものじゃないので』


幸村くんの手から天体望遠鏡を受け取って棚に仕舞う。


「屁理屈はやめて」


腰に回った腕に引き寄せられ、顎を掴まれ無理やり目を合わせられる。


「恋人になりなよ」
『え?あの』
「考えたいって言うなら待つよ」
『そ、その前に幸村くんがわたしへの気持ちを整理してよ』
「俺の?」


頭を捻ってから、腕の中にわたしを収めた。


ひー、こんなところ誰かに見られたら。って思ったけど、もう当直の先生くらいしかいないのでは?
それに抱きしめるより、キスされてるのをクラスメイトや幸村くんの取り巻きの前ではしてるんだ。
これはそれ以上の行為ではない。はず。


「好きってよくわかんないな」
『恋人はそれがわかってからです』


わたしは幸村くんの胸を押す。
それよりも強い力で抱きしめられ、骨が軋みそうだ。


「このまま」
『満足したら離してね』
「ん」


ずっと幸村くんのされるがままだな。
別に嫌じゃないからいいんだけどさ。