デートした翌日の朝。
水槽の前へ行けば、朝練をサボった仁王が姓と話していた。
姓は焦っているみたいで、両手で頬を包み、どうしようどうしようと歩き回っていた。
「おう、来たか柳」
『お、おはよう!』
「おはよう、姓。何を慌てている」
「見てみんしゃい」
仁王は携帯のディスプレイを俺の目の前に突き出した。
SNSの記事だ。その文面と画像に眉間にシワが寄る。
あの写真だ。二人で金魚の水槽の前で微笑んだ。
《素敵な日本人カップルに会っちゃった!こんな二人がまだいるのね、羨ましい》と書かれ、スクロールすれば、コメントや沢山の人にシェアされている。
この後知ったが、この外国人旅行客は人気のユーザーらしく、あっという間に俺たちの顔は広まったわけだ。
「しかし、お前さんらいつの間に付き合っとったんじゃ?」
『はわー!付き合ってないよ!』
顔を真っ赤にして、首を横に振った姓。
仁王は俺の顔を見てニマニマと笑う。
隠し通していても、察しの良い精市が気付くのだから、仁王もとっくに俺の気持ちは知っているはずだ。
頑張りんしゃいと肩を叩いて、どこかへ去った。
腹をくくるしかない。
「姓」
『はい!』
姓が俺の目をジッと見つめた。
「俺はお前と恋人と言われても構わない。むしろそうでありたい」
『柳くん?』
ぽかんと呆然する彼女の両手を握る。
「好きだ。こんなタイミングですまない」
『わ、わたしも好き!』
真っ赤な顔をした、姓に抱き着かれる。
そっと、彼女の背中に手を添えれば、歓声と拍手が巻き起こった。
何事かと振り返れば、よく見知った顔や野次馬に取り囲まれていた。
そうか、朝の廊下だ誰が居ようと当然なのだ。
「金魚ちゃん、柳くんおめでとうー!」
「世界的に有名人じゃん!」
囃し立てる声に、俺は姓の手を引いて、来賓用玄関から飛び出した。
学校中に顔も知られ、昨今のインターネットの恐ろしさに震える。
姓の旅館も何故か外国人旅行客が殺到するようになった。
そこでも金魚ちゃんの愛称で親しまれ、俺のことはウィローと呼ばれている。
名は体を表すというが、海の外の人間から見ても俺は柳なんだなと。
『蓮二くんの浴衣姿、まともに見られない』
「名もかわいい。金魚みたいだ」
衝撃的なきっかけで恋人になったが、穏やかで清いお付き合いをしている。
相変わらず、和装でデートをするためか、「あの人たちはもしかして」という声や視線を感じる。
最初こそ名はむず痒いという顔をしていたが、もう気にしていないらしい。
「名、好きだ」
『わたしも大好き』
ギュッと腕に抱きつく。
「俺としては、手を繋ぎたいな」
『わかった』
名は腕から離れると、俺の手のひらに手を添えた。
指を絡めてぐっと握る。
たっぷりの愛に胸が満たされる。
「これからも一緒にな、名」
『もちろん。蓮二くん』
END