『生徒会ですか?』
「姓は特に部活動に所属していないだろう。日直や掃除なども真面目に取り組む。だから、推薦しようと思うのだが」
『はぁ……』
二年の秋。音楽の授業が終わった後、榊先生から生徒会への誘いがでた。
先生の言う通り部活はしていないし、頼まれたことはきちんとやる。
だからと言って生徒会なんて無理だ。
なんせ生徒会長にあいつがいる。
跡部景吾。俺様でとんでもなく自信家でナルシスト。
クラスが一緒になったことはないが、風の噂だけでとんでもなく嫌いな奴だ。
来る女拒まず、去る女追わず。
言い寄ってくる女はとりあえず抱く。
クラスでも小声で跡部に抱かれたときゃいきゃい騒ぐ女子がチラホラいる。
「そこは自分だけでなくていいのかよ」と心の中で突っ込みながら、跡部への嫌悪が増す。
「頼む。生徒会に入る生徒が最近減っていて困ってるんだ」
『……わかりました。今期だけですから』
「ありがとう」
断れなかった。
困ってるとか言われてしまうと、どうも手を差し伸べたくなってしまう。
話は通しておくからと言われ、生徒会選挙がすっ飛ばされるぐらい人が足りないんだとため息を吐く。
「オイ」
音楽室を出ると声をかけられた気がした。
今は昼休み。誰が誰に声をかけたかわからないくらい騒がしい。
わたしじゃないと信じきってその声を無視する。
「無視してんじゃねぇ」
肩を掴まれ、無理矢理後ろを向かされる。
『何用』
「生徒会に入ったんだろ、姓名」
跡部景吾だ。
見下すように睨みつける彼の手を払う。
一気に不機嫌になった。わたしも彼を睨みつける。
鼻で笑われる。
『よろしく。役員じゃないからちょっと手伝うだけだから』
「構わねぇよ。山ほどやることはあるんだ。あいにく俺様はテニス部の方もあって手が回らないからな」
跡部の言葉を最後まで聞くことなく、踵を返し自分の教室へ向かう。
関わりたくないのに関係ができてしまった。
「無視の代償はでかいぜ?」
知るか。
跡部に背を向け、歩みを教室へ向けるが、針を刺されたように首筋がチリチリする。
跡部に睨まれている。
動物園で身を低くした虎に睨まれたあの感じと似ている。
「今日の放課後から生徒会室に来い。頼むぜ名」
ククッと喉を鳴らして笑う。
不快だ。腕にできた鳥肌をかきむしる。
頼まれた以上こなさねばいけない。
憂鬱だ。
この後期は文化祭に聖夜祭、卒業式や入学式まである。
忙しいに決まっている。
生徒会だけでなく、部活に所属している生徒殆どに言える。
もう一度自分の性格を恨む。
せめて跡部でさえなければこんなに憂鬱にならないのに。