保健室に着けば、わたしの顔を見て養護教諭の先生はわたしをベッドに押し込んだ。
カーテンを閉められ、個室になったような閉塞感。
することがないから眠ることにした。


どれくらい眠ったのだろうか。
カーテンが動く音で眠りから引き戻された。


「よう」


ぼやけた視界を正すために何度も瞬きをする。
わたしを見下す影。


『あ、とべ……?』
「よく寝てたみたいだな」


カーテンを締め、一歩わたしに近付き顔を覗き込む。
わたしからではなく、彼から甘い匂いがする。
その匂いに頭がクラクラする。


おもむろに跡部は布団をめくり、わたしの胸元に顔を寄せた。


「しっかり残ったな、俺様の匂い」
『そのせいで大変な目に遭いそうなんだけど』
「気にすんな」
『ちょっ!』


跡部はブラウスのボタンに手をかけ、三つほど外し、思い切り左右に開かれる。


『何すんの!』
「じっとしてろよ」


冷たくいつもよりも低い声に怯む。

跡部はわたしに馬乗りになり、両手でわたしの腕をベッドに縫い付ける。
晒されたデコルテや鎖骨に跡部の舌が這う。


気持ち悪い。


『誘いにのるだけじゃないのかよ……っ!』
「名」
『いっ……!』


チクリとした痛みが胸元に落ちる。
鎖骨、首筋。何度も同じ針に突かれたような痛みが落ちてくる。


「こんなものか」


跡部は満足そうに見下ろし舌舐めずりをする。

視線を落とせば、胸元に無数の赤い跡が。
ぞわぞわと背中に虫が這い回る。


『そんな……』
「俺様はお前が欲しい」


目の前に跡部の顔。動けば鼻が触れる。
跡部の熱い息が顔に触れる。

ここで顔を赤くして何も言えないでいるのはまずい。流されてしまう。


『どうせ、同じこと誰かに言ってるんでしょ!』
「言うかよ。名以外興味ない」
『そんなんじゃ靡かないから!』


わたしは思いっきり頭突きをした。

腕を押さえつける力が緩んだから、跡部の下から抜け出す。
ブラウスのボタンをかけ直す。


「誠意を見せれば惚れるか?」
『なにそれ』
「俺様が女を抱くのをやめて、お前に無理矢理触れず、優しくしていれば惚れるか?」


跡部の真剣な表情に心臓に氷の杭を打たれた。
だけど、どこか弱い。いつもの傲慢さが全くない。


『惚れない。惚れたら……』


惚れたら……?惚れたらどうするんだ?
弱い跡部に流されそうになる。その先の言葉を飲み込む。


『どうするか考えとく』
「じゃあ、本気で行かせてもらうぜ。お姫様」


いつもの調子に切り替わった跡部は、わたしの左手をとり、薬指にキスをした。キザな奴だ。
わたしは跡部の目の前で、右親指でそこ拭いとった。
跡部はそれを見て口角を上げて笑う。


「ちゃんと生徒会室には来いよ」


そう言って保健室から出て行った。


わたしはもう一度ベッドに寝転ぶ。

なんでこんなにドキドキしているんだ。
静まれと願い目を閉じれば、また深い眠り落ちていった。