「名、昼は随分やらかしたみたいだな」
『憂さ晴らし』
「いい性格してんな」


今日は目安箱に入った投書の分別。
結構入ってるなと思えば、跡部へのラブレターやら、生徒への感謝やら、愚痴やら。
あまり学校の設備や体制への不満の投書は見受けられない。

女同士、跡部ファン界隈の狭さ。
跡部とわたしの噂は放課後にはすっかり広まっていて、尾もひれもつけて一人歩きしている。

跡部は泣きつかれ、わたしには罵声。お互いそれを無視して生徒会室に来た。


ラブレターは捨てろとのこと。当然。渡せないからって、直接跡部のところに着くと知っていたとしても、これはポストではない。
封の付いたものを開ける気はないが、専用用紙に書かれたものは貼り出される覚悟もあるのだろうか。


『かっこいいから好きってくだらないね』
「アーン?魅了されて当然だ」


わたしはラブレターを電動シュレッダーにかけた。
モーターとムシャムシャと紙を吸い込む音で跡部の声はかき消された。


全てシュレッダーにかけ終わると、ソファとローテーブルに戻る。
残りの投書に目を通す。


『なぁ、跡部』
「アン?」
『わたしの何が狙いな訳?』


どんなに頭の中を探っても跡部との接点がわからなかった。
目安箱に入れられたラブレターに書かれた惚れたきっかけを見て、改めて不思議に思う。

わたしは中等部からの入学組。
部活はおろか委員会にも所属せず、クラスの中で雑用をする程度。行事にも積極的ではない。
友達も多くなければ、登校はギリギリ。下校は即刻帰宅する。


跡部はずっと黙って手を動かしている。


「お前は俺様をどう見る」


跡部をどう見るかなんてくだらない質問だ。


『跡部景吾は跡部景吾だ。目の前にいるあんたが全てだ。わたしはそれ以上も以下も知らない』
「そうか」


跡部を知りたいとも全く思わない。


跡部は少し笑った。
本当に跡部の目的がわからない。


「俺様にとってお前は理想だ」
『どストレートにタイプなわけ?表面しか知らないし、その辺と変わんないけど』
「まぁな。だが、お前になら俺様の全てを見せてやっても良い」
『迷惑』


投書に目を通し終え、机で綺麗に整える。


『はいこれ。わたし的に重要度順に並べてるから』
「気がきくな」
『わたしの仕事だからね。帰っていい?また匂いが付く』


多分もう手遅れだけど。
昨日ほど強烈ではないが、その匂いはしっかりこの部屋に残っている。


「送る」
『いらない』


わたしはカバンを手に取る。
何かされる前にと机から抜いた置き勉や、友達から借りたノートを詰め込んでいるためズシリと重い。
少しフラついたのを跡部は見逃さなかったのか、何食わない顔でわたしからカバンを取り上げた。


「家、近いんだろ?」


こいつがカバンを持ってるのが不思議だ。


『仕事とか部活とかいいの?』
「気にするな。部活は休みだ。仕事はお前を送ってからでいい」


優先すべきことを間違っている。

ドアノブに手をかけた跡部が、動かないわたしを不思議に思ったのか振り返る。


「なんだ、帰らないのか?」
『跡部の仕事が終わるまで待つ』


幸いにも暇つぶしになるノートを写す作業がある。


「わかった。すぐ終わらせる」


わたしのカバンをソファに置き、跡部はデスクに戻った。
そこからノートを取り出し、上履きを脱ぎ捨てソファに寝転ぶ。

跡部の前では女として終わってるような仕草を取ろう。
うつ伏せ寝転んだまま、ノートを写す。


さっさとわたしを手放してくれ、跡部。