01





──それは一目惚れだったと、後になって思う。


事の始まりは、本当に些細な。他人なら気にも止めないような事である。政府から勧誘され家を追い出される形で審神者というなんとも不思議な職に就いたわたしは、戦力を増やすためだけに初期刀に促され鍛刀場へとやって来たのはいいが配分が分からないと。だからと言ってこのまま待たせるわけには行かないと、適当に資材を妖精に渡せば快く受けてくれる。

そしてどれぐらいの時間が必要なのだろうと時計を見ると、三時間二十分。そう、03:20である。この時間は誰がやってくるのかと表には出ないもののしっかりと心の中では楽しみつつ、手伝い札を両手で持ちながら初期刀である歌仙を見上げる。


「いいんじゃないかい?」


わたしの気持ちを上手いこと汲み取ってくれる歌仙には感謝しかない。というより家事があまりできないわたしにとっては歌仙を選んで大正解だった。まだ審神者となって二ヶ月程でもそう思えるのだから、初期刀の存在は偉大だと思う。
中には環境によって初期刀が与えられないこともあるのだそうが、可哀想だなあ、とどこか同情じみた感情しか浮かばなかった。


「妖精さん、お願い」


妖精に手伝い札を手渡すと、あっという間に時間が零へと変わる。さあ、誰が来るんだろうとわくわくしているのを歌仙は感じ取ったんだろう。落ち着きがないと言った様子で溜息を吐かれたが、それ以上に楽しみで仕方がない。
ふわり、と桜の花びらが舞って、視界が覆われる。初めは困惑して状況の把握が出来なかったなあ、と。二ヶ月しか経っていないにも関わらず懐かしい気持ちへとなった。


「よっ。鶴丸国永だ。俺みたいのが突然来て驚いたか?」


目を奪われた、と言っても過言ではないだろう。綺麗な桜吹雪の中現れたのは、桜吹雪に攫われてしまいそうなほど白く儚げな青年。一瞬でも瞬きをしたら、次の瞬間にその場にはいないのではないのだろうか。そんな錯覚さえ覚えた。しかし、耳を燻るのは見た目に反した低く落ち着いた声色。この音は目の前の彼が紡いだものなのだろうか。

彼はわたしを視界に入れた瞬間、誰なのかを理解したのだと思う。でなければわたしの前に来て笑うだなんて、普通ならありえないだろう。だってこんな環境でなければわたしと彼はただの他人だ。


「きみが主か?こりゃまた幼いな」
「初めまして。これから貴方の主となります。不甲斐ないばかりですが、よろしく」


よろしく頼むと言った声は優しかった。ここから本来であれば本丸の中を案内するのだけど、元々霊力の少ない平凡な人生を歩んでいたのだ。視界が霞んで白しか見えない。それを知っている歌仙は自ら案内をすると申し出てくれた。ああ、とても助かる。

わたしは新しく来た彼への挨拶もそこそこに部屋から抜け出し、覚束無い足取りでなんとか寝室へと向かった。

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