つり目の生活
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▽2020/06/16(Tue)
愛の巣
今日は引越し予定地の不動産に行ってきました。陽射しが強いと言うよりも、ねっとりとした、夏の匂い



ふと、思い立てば6月の丁度半分。後半戦に差し掛かってしまった、あ、やばい。急な焦燥感に駆られて、起きてからすぐに同僚に電話を掛けた。

同僚は不動産の仕事と、現職とを掛け持ちしているので、色々と詳しい。その上、引っ越す時に荷物の運搬などをやってくれると言う、その分業者代が浮く、本当に助かる。
良い同僚を持った……!

それで、不動産の事を色々と聞いてから、少しだけHPを調べて、すぐにお風呂に入って家を飛び出た。
髪と言い、タトゥーの事といい、本当に私は突飛に行動してしまう。どうしても衝動が抑えられない。今、と思ったら今なのだ。恋人に、不動産に行ってくる、と言って即家を飛び出てしまった。そして飛び入りでとある不動産に入り、条件や希望を言って調べてもらい、担当の者が来るまで一時間と少しかかるのですが、どうしますかと聞かれたので待つと答えた。

そしてその一時間を、すぐ隣のカフェで潰していた。
参考程度に、と貰った資料をながめながら、交渉の仕方や初期費用の抑え方などを調べて、予習をしながら待っていた。

虎さんはリモートワークが忙しいらしく、もし内見とかあったら一緒に行く?と誘ってみたところ、全部任せる、と言うので信頼されてるなぁと笑いながら「その代わり決まった所に後から文句言うなよ」と念押しして、連絡だけ取るようにした。

幾つか候補があったのだが、まず良いなと思った所は駅が遠いのがネックだった。
私は自転車などでも通勤できるけれど、彼は自転車は乗らないし、駅から遠いのは恐らくNGだと分かっていた。一応聞いてみるも、やはり遠い〜と嘆いていたので、第二候補のものをよく見てみる。
物件自体は最高に良く、また駅から徒歩3分という超優良物件。だが、敷金礼金どちらも付いてくるので、そこをどうしたもんか、と悩んでいた。

そして先方からの電話、すぐにアイスティーを飲み切って不動産に戻る

そこから交渉が始まった。
これが気になります、けどどうしても初期費用を抑えたいんです、と粘りに粘って、これとこれで交換条件ならどうか、とか、これに関しては保証するのでここを削ってはもらえまいか、とか、まぁまぁ無茶なお願いをしたと思う。
それでも、突然飛び込んできたくそ迷惑な客の私にも、その不動産はとても丁寧に根気強く探してくれた。
あるお姉さんが私の担当についてくれたのだが、それはもう話が弾みに弾んで、お互いひたすら笑いながら話をして楽しかった。向こうは営業なのだろうけど、それでも少し込み入った話もしたりして、まぁ単純に相性も良かったのかもしれない。そこまで思わせてくれるのが技術だったとしたら、あのお姉さんはとんでもない強者だと思う。

話は進み、内見も行きますか?と案内してくれたので、是非、と第二候補だった物件を内見させてもらった。一つ目の気に入った例の駅から遠い物件は、もう候補から外してしまった。
いくら物件自体が良くても、駅から遠ければもうナシだ。

第二候補が第一候補に変わり、内見させてもらって思わず即決してしまった。
幾ら私が衝動的過ぎるとはいえ、住居に関することだし、虎さんも一緒に住むのだから、もっと慎重になった方がいいのでは、とも思ったが、如何せん実際内見に行ってみたらもう一目惚れ。あ、好きここ。住む。もう絶対住む!と惚れ込んでしまった。
元より、外観ちょっと派手すぎませんか?と思ったくらいだったのだが、実際行ってみるとなぜかすぐに虎さんと二人でこのマンションに帰ってくるのが浮かんだ。何と言うか、本当にピンと来た。嫌な感じは一切しなかった。

内装は、少し昔馴染みの1DK。部屋の中に大きな窓が幾つかあったのがとても良かった。
その窓から見える裏路地は、正にクレヨンしんちゃんのオトナ帝国の「あの街」のようで、

窓からスカイツリーも見える。


夕暮れ時が部屋だった。少し昭和の匂いがする、正に昔の同棲時代を思わせるような、そんな部屋。
夕陽が射し込んでくれば、和室とキッチンが彩られ、きっと風呂上がり濡れた髪をまとめながら煙草を吸えばそれだけで絵が完成してしまうような、そんな部屋だった。

私はずっとこれを夢見ていた。


十代半ばだろうか、もっと前だろうか。それこそオトナ帝国を観て、それはそれは衝撃を受けたものだ。
あまりにも、あまりにも素敵だと思った。
あの街並みも、ケンとチャコが住んでいたあの家も、全てが憧れでしかなくて、どれほどあの作品の中に自分も住んでしまいたいと願ったことだろうか。
もし自分があの世界の住人だったら、絶対に21世紀を欲することはしなかっただろう。
あの世界に住み続けていただろう。

だから、私はいつも男の人に「もし一緒に暮らすならどういう家がいい?」と聞かれる度に、「とても古くて安いアパートで、窓から下町を眺められる、そんな家がいい」と答えるのだが、その度に妙な顔をされてしまうのだった。

あの家は、正しくあの家こそが、私と恋人とのこれからの愛の巣だ。

虎さんが、私に「これからの二人の愛の巣だ」と連絡をくれた。
改めて言われると実に照れ臭く、こそばゆく感じたのだが、その癖とても嬉しかったのだ。

煙草と風呂が似合う部屋だと思った。
そして夕暮れ時が、なんて似合ってしまう部屋だろうと

あんな中で、二人でご飯を食べたり、テレビを観られたら、それはそれは幸せなのだろうと


ずっと夢物語だと思っていた。
まだ一緒に暮らしていない頃、月に二回ほどしか会えなかった頃、ホテルの窓から二人で景色を眺めて
私はいつかこの人と一つ屋根の下で暮らせたら、と想いを馳せていた

部屋を出るその瞬間が寂しくて、切なくて、どうしてずっとこの人と一緒に居られないのだろう、と胸を痛めていたものだ。

間違った順序であるのは認めているし、まだケリも付いていないのに同棲なんて、というのも分かる。
それでも、後悔はしていないし、これで良かったと思う、

これから、長い時間をあの街で二人で過ごせたらいい。二人で一緒に、ずっと手を繋いで歩いて行けたら、私はもうそれ以上の幸せはないと思うのだ。

あの美しい人が、あの優しい微笑みを私に向け続けてくれるだけでいい。十分だ。あんなにも、会えない日々さえ乗り越えられたのだから、

あの夜も、あの夜も、どの夜も恋人と居られるだけで幸せで、そしてどの夜も表しきれないほど美しくて切なくて、話す度に、触れられる度に、抱かれる度に惹き付けられていくあの数々の夜を重ねて、少しずつ距離を縮めてようやく念願の夢が叶うのだ。

私はとても、幸せ者だと思う


私は決して都会っ子のような派手な女ではないけれど、それでも飽きずに私と一緒に居てくれることを祈っている。
あんな素敵な部屋で、もしも別れというものがあってしまったら、その時は私はもう立ち直ることはできないだろう。
あまりにも、あまりにも素敵なあの部屋で、あの美しい恋人との別れなんて想像できないししたくない。
だからどうか、私を捨てないで欲しい。

きっとそれはない、と言ってくれるのだろうけれど


それでも一抹の不安を、どうしても拭い去ることはまだできないのです、

とても釣り合う人間ではない。だからこそ、今は「まだ」釣り合わないけれど、少しずつでいいから貴方の隣を胸を張って歩けるように、努力を積み重ねていく。

そして本当に恋人だけの女になれたら、その時は骨が折れそうになるまで抱き締めて欲しい。


今はただ、着々と計画を実行していく、


それまで待っててね。待たせてばかりでごめんね



早く夕暮れのあの部屋に二人で息をしよう、



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