◎匿人は普通の人間。フルネームは一ノ瀬匿人。良家の一ノ瀬家に産まれた次男で上に兄と姉が一人ずついる。ただ匿人だけは父親と愛人との子だった。
匿人の母親は匿人が産まれた瞬間匿人を一ノ瀬家に置いて蒸発している。一ノ瀬家では匿人の母親はふしだらな女だと嫌われており、匿人の父親と関係があったこと自体が一ノ瀬家にとっての汚点とされているため対外的にはなかったことにされていた。しかしそこで唯一邪魔になったのが、母親が無理矢理置いていってしまった匿人だった。匿人の存在があるせいで母親のことを上手く隠し切れず、さらに匿人が父親ではなく母親と瓜二つだったせいで正妻との子として偽ることもできない。
そういった理由から結局匿人は一切外部の人間の目に触れないようにして育てられた。言ってしまえば家に軟禁されていたような状態で、家からは一切出られずほとんどを自室で過ごしていた。
この頃の匿人の世界は家の中、そして限られた人間だけで完結していた。また最初は匿人の父親の愛人関係が一ノ瀬家の汚点とされていたが、次第に匿人の存在自体も汚点とされるようになっていった。
一ノ瀬家の人間からは匿人の母親は嫌われていたが、その子供であり一ノ瀬家の汚点である匿人も同じように嫌われていて煙たがられた。あまり関わろうとする人はおらず、そもそもいないものとして扱う人もいた。

◎匿人自身は母親のことを知らないが、家の人からの評判は当然のように知っており、また自分がこのように扱われる原因であるということも知っているためあまり良くは思えていない。しかし直接会ってもいない人間のことは嫌うに嫌えないが、だからと言って会いたいとも思わないというのが当時から今にかけて変わらず思っていること。また現在はさらに、人柄は知らないため何も言えないが、産まれたばかりの子供を捨てた母親という面は好ましくないと、周囲の人間から得た印象だけでなく匿人本人としてもあまり良くない感情を持っている。

◎唯一歳の近い姉(3歳差)だけは、まだ幼くて状況を正しく理解していなかったこともあって、匿人のことを避けることなく普通の姉弟として関わろうとしてくれていた。ただ仲良くしようとしていることが大人にバレると怒られるため制限は大きかった。しかしそれでも他とは違って優しくしてくれる、歳の近い姉の存在は確かに匿人の心の支えになっていた。

◎家からは出されないが一応一ノ瀬家の人間として相応しい教育は受けさせられていた。教育係は揃って面倒臭そうな態度を取っていたため匿人はあまり好きではなかったが、家にいても他にすることがなかったこともあって勉強の内容自体にはよく関心を持っていた。生まれつき頭の回転は早くて覚えもよく、その上この頃からどんどん知識欲が芽生えていったため、幼いうちから年齢に見合わないものまで様々な本を読み漁って知識を吸収していっていた。この頃芽生えた知識欲は今でも根底に根付いているため今の匿人も知識の幅が広い。この頃の匿人にとって本は友達のような存在だった。


◎それまでずっと家の人からは煙たがられていたせいで匿人の世話係は固定されていなかったが、7歳頃からはサイトーさんというメイドが世話係として常に匿人につくようになった。

○サイトーさんは一ノ瀬家にとっては少し特殊な人だった。彼女は一ノ瀬家にも名の知れた良家の娘だったが家が嫌いで家出して一ノ瀬家に雇われに来た過去を持っている。一応メイドだが家事の類がほとんどできず、代わりに戦闘スキルは自分自身のもの・トレーナーとしてのものの両方が高かったため、元々はメイドというより警備員のような仕事をしていた。一ノ瀬家で仕事をしている間やけに煙たがられている匿人のことがずっと気になっており、そんなに嫌われている匿人って子はどんな子なんだろうとあるときから匿人に関わり始めた。すると多少変だと感じるところはこの歳の子供としては出来すぎてるところぐらいで、あとは他と変わらない普通の子だということを知る。「それなら匿人自身に問題があるわけでもないんだし私は普通に接してもよくない?」と思い、他の人が関わりたくないなら私がと自ら名乗り出て匿人の世話係になってくれた。性格はサバサバしていて若干適当なとこがある。ルールよりある程度自分の意思を尊重したいタイプで規則に反したことをしたときの誤魔化し方が妙に上手い。トゲのないズル賢さがあるタイプ。あまり周囲の人間の目を気にしない。当時成人しているかしていないか程度の年齢でかなり若いが子供の匿人から見ると普通に大人に見えていた。

◎そんなサイトーさんのおかげで匿人は家の人の目を盗んで少しずつ外に出られるようになっていた。サイトーさんは「他人に匿人の存在を知られなければいいんでしょう?だから私が人の目に触れないよう見張ってる限りは別に外に出しても構わないでしょう?」というような理屈を通して外に出してくれていた。ただそのような理屈であったため、外の世界に出ても行く場所は専ら人気のない森等で外の人間と関わることはなかったが、それでも今まで一度も外に出たことがなかった匿人にはそれで十分だった。またこの頃サイトーさんの戦闘姿を見て憧れてサイトーさんから武術を習い始めた。サイトーさんは匿人にとって唯一絶対味方でいてくれるという信頼を持てる大人だった。


◎この頃の匿人は7歳の子供にしてはやけに大人びていた。物分かりが良すぎる上に大人しく、(大人にとっては都合の)いい子といった子供だった。既に本心を隠して笑うことを覚えている。その態度が子供らしくなく気持ち悪いと言われることもあったが、それでも笑ってる方が都合がいいことが多かったため笑顔を作ることはやめなかった。本心から笑うことはほとんどなかったが、サイトーさんが世話係になってからは少しだけ本心から笑うことも増えていた。

☆この頃の匿人にとって自分のことを愛してくれる人は姉とサイトーさんだけ。他人からの愛を知らないわけではないが知ってると言うにはあまりに物足りなすぎる。


これが桃瀬と出会う前の匿人。