ロレンツィは最期は自分の毒に呑まれて死ぬ。 そのつもりはなかったのにジェドに毒を与えてしまったところから違和感が始まる。 今まで感情が昂ったときに毒が暴走することはあったがそれ以外ではなかったのに次第に情緒は安定していても勝手に体外に毒が分泌されてしまうようになっていく。 その頃から他人に直接触れないよう、触れさせないよう厚着をして手袋とマスクを常備して極力肌を出さないようになる。 また態度も変わって常にピリピリしていて今まで以上に他人を寄せ付けなくなる。ジェドにも触れさせないようにするあまりまた壁を作ってしまうようになる。 そして次に自分の身体にも毒が回っていくようになる。 少しずつ体調が悪い日が続くようになり、目に見えて体力も落ちて普通の生活もままならなくなっていく。 食事を取っても吐き戻しがちになって栄養が摂れなくなってからはいよいよロレンツィ自身死を意識し出すが、ロレンツィ自身は変に苦しむ期間を延ばすよりはそのまま死ねればいいと思ってしまう。 しかしジェドがいつも叱ってくるときより一段と真剣な様子で怒ってきて、それから医務室によく通うようになる。そしてそのまま病院で言う入院のような状態になる。 点滴で栄養は受けて何か起こる度に薬で紛らわせるが、ロレンツィの毒は病気でも何でもなくただのロレンツィ自身の特異体質でしかないため完全に治すことはできない。薬で誤魔化すことしかできないがそれも長くは続かない。 内臓も弱っていく上身体の末梢の手足から動かなくなっていく。体力も無くなる上に手足も思うように動かずどんどん何もできなくなっていく。 気づけばベッドから降りることも少なくなり一日の大半を寝て過ごすようになる。 もう限界は近いと誰が見てもわかる状態で、それでもただ死を先延ばしにすることしかできない。 そしてある日ロレンツィは自分の意思で毒を暴走させる。 今ならもう普通に毒を使っていたときのようにしようとすれば簡単に暴走することがわかっていて、そして何より暴走させてしまえばそれでもう簡単に死ねることもわかっているため。 そうやって誰も見ていないところで毒を暴走させて一人きりで死んでゆく。最期まで他人に触れさせることのないまま独りで死ぬ。 数時間もしないうちに死んでいることを医療班に気づかれて間もなくジェドの耳にも伝わる。 ジェドはこうなることは前から察していて、それでももう止める気にはなっていなかった。 最期ぐらい看取らせろやとは思いつつ最期まで一人を選ぶのはお前らしいなとも思いながらジェドはただロレンツィの遺体を見つめる。 ジェドは誰より落ち着いてロレンツィの死を受け入れる。もしくは生前からもう受け入れる準備ができていたのかもしれない。 入院前は一人で抱え込もうとして距離を置いていたロレンツィはジェドに一度叱られたことで頼ってもいいと気付いたため入院後はまたジェドに少しずつ心を開くようになる。それまでの普通の距離感に戻り、むしろ自分で死期を悟っている分少し穏やかになるため今まで通り喧嘩もするけれど時々少し笑うことも増える。 結局は一人で死のうとする上入院し始めた頃からずっとそうする気でいたが、死ぬまで心の一番近くにはジェドの存在を置けていた。 このときロレンツィが壁を作るようになってもジェドは同じ態度でいてくれているため関係性がロレンツィの気持ち次第になっている。 ジェドはロレンツィがどうであろうと離れも近づきもせずずっと変わらないでいてくれるためロレンツィの気持ち次第で距離感が定められている。 ロレンツィの死後ジェドはロレンツィが吸い切れずに遺した煙草を少しずつ吸うようになる。 煙草を吸っていることを他人に知られて煙草嫌いではなかったかと聞かれてもああ嫌いだと少し笑いながら吸う。 弔いのつもりか、もしくは名残惜しさによるものか、本人もわかっていないけれどなんとなく吸わなければいけない気がしてロレンツィの遺した煙草は捨てることなく吸い続ける。 ロレンツィの遺した分が無くなったらそれきり煙草はやめる、つもりでいたがロレンツィが生きていた頃と同じように仕事でどうしても遣り切れないことがあったときには思い出してしまってまたロレンツィが吸っていたのと同じ銘柄の煙草を買って吸うようになる。 ジェドはロレンツィのことは特別の枠に入れているが強い執着心はなく、また精神的に強いためロレンツィが死んでも変わらずに生きていける。しかしロレンツィの死後どうやっても他のひとを自分の特別に入れることはできずに一人で生きていくことになる。 ジェド自身そんなつもりはなかったのに、どうしてこんなことに、と思っているがどうしようもないまま生きていく。 しかし時間が経ってロレンツィの存在を噛み締めていくうちにジェドの中でのロレンツィの在り方が変わってゆき、次第に他人に結婚などはしないのかと聞かれたときに「昔大事な奴がいて、」と答えられるまでになる。 現在のジェドにはまだ大事な奴という表現はできない。 |