トクモモ 幼少期
◎トクモモの出会いは匿人が「少し遠くに行ってみたい」という願いを持ったことがきっかけ。匿人8歳、桃瀬7歳の頃。その願いは普段自分の意思を話すことの少なかった匿人にとっては珍しく口にしていたもの。それを叶えようとサイトーさんが連れていってくれていた先の一つがたまたま桃瀬の産まれた村の外れで、たまたま村の子供達にいじめられた後でボロボロの状態で倒れていた桃瀬を見つけてしまったところから二人の関係は始まった。本当は匿人は外部の人間である桃瀬と関わることはできないが、桃瀬がそうも言っていられない状態でサイトーさんが放っておけなかったこと、そして桃瀬が“小さな村の”“子供”であり一ノ瀬家の評判にあまり影響しないだろうと判断されたことで関わることを許可された。
意識を失っていた桃瀬の手当てをサイトーさんがし、それから桃瀬が目覚めるまでずっと匿人は桃瀬の顔を覗き込んでいた。そのため目覚めた桃瀬が最初に目にしたのは匿人。桃瀬は最初は匿人のことを村の人と同じだと思い怯えたが、村の人からは向けられたことのない優しい目をした匿人に「大丈夫?」と手を差し伸べられ、まだ怯えたままではあったが恐る恐るその手を取った。
それから話をするうちに互いにひとりぼっちだということを知る。「友達になろうよ」と言った匿人に初めて桃瀬は笑顔を見せた。「また会いに来ていい?」と尋ねる匿人に逆に「また会いに来てくれるの……?」と驚いた様子を見せる桃瀬。「これからも、何回でも会いに来るよ」「だって友達だもん」と匿人は笑って初めての約束をした。これが匿人と桃瀬の出会いで互いにとっての初めての友達になったときの話。
・匿人
匿人は桃瀬と出会うまで同年代の子供と関わったことが兄、姉を除くと一度もなかった。そのため桃瀬は匿人にとっては初めての友達以前に初めて話した人間の子供だった。家の大人とは話す機会があったが外の人間、また子供との話し方は知らず、悩んだ末に桃瀬に対しては家の人と話すときとは違って敬語をやめ、小説等で学んだ喋り方をすることにした。また、家を嫌っていた匿人はここでは家のことは忘れてもいいのではないかと思い、自身にとっての標準語となっていた敬語をやめた際に一人称も僕からオレに変え、家での自分とは丸切り違った自分を作り出そうとしていた。このときはまだ普通の子供らしい口調を作ろうとしていたが、その後口調を変えることに慣れてきてから徐々に今のような緩い口調への変化させていった。(この変化の過程で口調を作ることで意識的に新しい人格を作ることを覚える。新しい人格を作る、自分以外の何者かになるという手段を得たことで匿人の自分を偽るスキルが上がった)
また同じ年頃の子供と関わるのは初めてで関わり方を知らないため、かなり手探りで桃瀬への接し方を掴み取っていった。知らない人間に話しかけることも初めてで、匿人はここで産まれてから一番の勇気を絞り出していた。その勇気があったからこそその後家とは違った自分を作ること、桃瀬と友達になろうとすることへの勇気も出せるようになった。
匿人が初めての外の友達を作ることができたのは相手が人間社会でのコミュニティに属していない桃瀬だったからこそ。もし相手が普通に親のいる、もしくは親に代わる人間のいる子供だったのならサイトーさんはその関係を一度きりのものにさせるつもりでいた。そのためほぼ確実にここで相手に匿人のことは忘れてもらうことにしていたが、その相手というのが異常なほどに人間との関わりがない桃瀬というイレギュラーな存在であったため匿人が友達になることを黙って許してくれていた。
匿人にとって桃瀬は自分が変わるきっかけとなっていた。また長い目で見ると家との繋がりを絶つための小さな一歩となっていた。
・桃瀬
桃瀬は自身に対して好意的に接してもらえた経験が神以外からは無かった。そのため匿人は桃瀬にとって異例でしかない存在で、全くの未知の存在であったためどのように行動していいかわからなかった。そのため最初に匿人の手を取ったのは桃瀬にとっての最初の勇気。
今まで自分の話をまともに聞いてくれる人がおらず、他人と話をすることには極端に不慣れであったため基本話は匿人が主体となっていた。それでも自分が何もできなくても匿人が話を続けてくれたことで匿人の人柄やその態度に悪意が含まれていないことなどを感じ取れる機会が増え、結果的に匿人に気を許す助けとなっていた。また匿人という村の外の人間の存在を知ったことで外の世界に対する可能性に気づき始めた。
また、誰からも受け入れられなかった自分にまた会いに来たいという匿人の言葉は、完全に意識の外から来た言葉だった。そしてその言葉を上手く受け止め切れなかった自分のことも匿人は受け入れてくれたことで自分も他人から受け入れてもらえることがあるものなのだという認識を初めて得られた。
桃瀬にとって匿人は未知の存在であり、外の世界にはそれまで知り得なかったことがあること自体を知るきっかけとなった。
○少しだけ外の世界に出られるようになった匿人によって桃瀬も少しずつ外の世界の存在を知ってゆくという図。
◎それから匿人と桃瀬は何度も会い、関わり合っていくことで少しずつ打ち解け合ってゆく。匿人は外に出るときは必ず桃瀬のところへ行くようになり、暇があれば桃瀬の元へと行きたがった(ほんの少しだけ子供らしくわがままが言えるようになった。しかし妙に聡い子供であったため自身の状況は理解していることが多く、無理を言うことは決してなかった)。
◎匿人がよく目立つ桃瀬の髪を何気なく綺麗だと言って桃瀬を泣かせてしまったことがある。これは桃瀬の髪は桃瀬が忌み子とされた要因の一つであり、誰からも蔑まれてきて桃瀬自身も右目と並んで大嫌いなものだったのに、匿人に真逆の反応をされて酷く驚き混乱し切って頭の処理が追いつかなくなったため。
これに対して匿人は桃瀬が怯えて反射的に涙が出てしまったとき以外本気で他人を泣かせたことがなかったため匿人自身もどうしていいかわからず混乱してしまった。謝ったり泣いている理由を尋ねたり等何をしても駄目で、最終的に桃瀬が落ち着くまで待って話をし、桃瀬が嫌がっていたわけではないことを知ってから自分はその色が大好きだと伝える。
ここから初めての友達の匿人が初めて好きだと言ってくれたものとして桃瀬自身も自分の髪を受け入れられるようになり、匿人が褒めてくれるからという理由でその髪を伸ばし始める。それからいつも匿人がその髪を褒め続けてくれたおかげで数年経った頃には桃瀬の中で自身の髪は大切なものとなりはっきりと好きだと言えるようにまでなる。
◎匿人と出会って半年程経った頃に桃瀬は野生の傷ついた★ポニータ(現在の★ギャロップ♂蓮華)と出会う。ポニータは色違いであるせいで他のポケモンからは差別されることが多く、また人間からはその珍しさから狙われやすかった。過去に人間に狙われた際に自身を身を呈して守ろうとしてくれた両親を亡くしており、それ以来相当親しい相手にしか本来の明るい性格を見せなくなり他人を寄せ付けようとしなくなっていた。
そのため傷ついたポニータを何とか助けようとした桃瀬にも決して心を開こうとはしなかった。しかし、自身が色違いであることを嫌っているポニータに桃瀬は「ひとと違うの、ぼくといっしょだね」と笑いかける。その笑顔は痛々しくポニータに響くものがあった。それから親近感が湧いた桃瀬は何もすることはできないがポニータの傍にいようとするようになり、ポニータも自ら近づくことはなかったが突き放すこともしなかった。
その後人間に捕まりそうになったポニータを桃瀬は守ろうとし、しかし自身も忌み子である桃瀬はその人間に傷つけられてしまい成り行きで近くの池へと突き落とされてしまう。その自身を守ろうとして傷つけられた桃瀬を助けようとしてポニータは擬人化を会得し、ほのおタイプでありながら自ら池に飛び込んで桃瀬を助け出す。
その一件からポニータは桃瀬に心を開いて友達と認め、桃瀬の相棒となる。後日事情を知った匿人からボールを貰い、正式にポニータは桃瀬の手持ちとなった。同時に蓮華という名前も与えられるがこれは桃瀬を助けたときにたまたまポニータの体に付着した蓮の花がまるでポニータの体から咲いているかのようで綺麗に見えたため。その花の名前は匿人から教えてもらった。
蓮華は次第に桃瀬やその友達である匿人には本来の元気すぎるぐらいに明るい性格を見せるようになる反面、懐に入れていない相手には変わらず冷たく遇らう排他的な面がある。
◎匿人と桃瀬がかなり打ち解けてから、それまで楽しい話しかしてこなかった匿人の口から「自分の名前が嫌いなんだ」という初めての後ろ向きな話が出たことがあった。それまで匿人と桃瀬は互いに“匿人くん”“桃瀬くん”と呼び合っていたが、その言葉を聞いて桃瀬は「じゃあ、ぼく、“トク”って呼んでいい?」と提案する。それが嬉しくて匿人も桃瀬のことを“モモ”と呼び始める。
これ以来匿人は、桃瀬は明るくしているとき以外の自分のことも受け入れてくれることを知り、少しずつ家のことなどの愚痴も話すようになる。また桃瀬も匿人がそのような話をするようになってから、自分が一度死んで生き返っていることや神のことなど自分自身の深い話をするようになる。
・匿人はここで初めて自分を隠さずに接していい相手がいることを知る。匿人にとって桃瀬は何でも話しても大丈夫なんだという安心感を持てる相手となった。ただし本人はそう感じているが自分を隠す生き方は染み付いてしまっているため、成長するに連れてまた少しずつ無意識に桃瀬に対しても特に感情面のことは隠しがちになっていく。
◎外から来た匿人の話を聞いて桃瀬は外の世界に憧れを抱くようになる。そして匿人10歳、桃瀬9歳の頃に匿人から桃瀬の10歳の誕生日に2人で旅に出ようと提案し、約束をする。この約束をしてから桃瀬は憧れていた外の世界へ出ることが具体的な話となったことで一層外への期待が高まった。また何より楽しみだと思えることができたことでこの頃から性格も以前より目に見えて明るくなっていった。
◎匿人は本来外部の人間と関わることを禁じられているため、旅に出ることも許されることではなかった。そのため旅のことはサイトーさん以外には知らせずこっそりと家を出るつもりだった。しかし出発の前日の夜になって旅の準備をしていたことが父親にバレてしまう。
当然のように叱られそれまで容認されていた外に出ることすらも禁じられそうになるが、「オレはオレです。一ノ瀬は関係ない、オレは一ノ瀬匿人ではなく匿人だ。これ以上家に、貴方に縛られたくない」と反発する。父親はこれまで常に従順で文句一つ言うことのなかった匿人が初めて強く反発してきたことに少し動揺する。だがそれだけで外へ出ることが許されるわけもなかった。
しかし、いつも桃瀬の元へと行くとき世話になっていて、旅のため家を出るときにも連れていってもらう予定だったサイトーさんのポケモンが、父親にバレたのとを察して擬人化姿で駆けつけてくれた。擬人化という能力の存在すら知らなかった父親は当然サイトーさんのポケモンだと気付かず侵入者扱いするが、そうして騒ぎを起こしている間にサイトーさんのポケモンは匿人を連れて窓から逃げ出しそのまま桃瀬の元へと飛び去った。匿人は初めて父親に自身の想いを告げたときの緊張感からまだ抜けられず、またこの逃亡が成功に終わるかわからないという強い不安もあり桃瀬の元へ向かう間は終始無言だった。
桃瀬の元に着いた時点でまだ深夜で、もうとっくに桃瀬は寝ているだろう時間だったが、桃瀬のところ以外に行くあてのない匿人は桃瀬を起こさないようにしてこっそりと洞窟の奥の桃瀬の“家”に入り、そこで夜を明かすことにした。しかし途中で桃瀬は目を覚ましてしまい何故今ここに匿人がいるのか不思議そうな顔をする。匿人は無理矢理笑みを作り「逃げてきちゃった。これで、モモと旅に出れるよ」と言う。桃瀬はいつもより不自然な匿人の笑顔を見ての奥に何か隠していることは察し、しかしわざわざそれを聞き出す必要もないと思った。そして桃瀬は匿人に「おかえり」と言ってへにゃりと笑った。匿人は桃瀬のその言葉とその笑顔を向けられた途端にそれまで張り詰めていた緊張の糸が切れ、内に隠そうとしていた不安が溢れてボロボロと涙を流してしまう。子供ながらそれまでほとんど泣いたことのなかった匿人は自分が泣いていることに混乱してしまうが、そんな匿人を桃瀬は優しく抱きしめて、頭を撫でてくれた。匿人はそこで今まで一人で抱え込んでいたものが溢れ出すように桃瀬の腕の中で泣き続け、そのまま泣き疲れて眠ってしまう。
この一件により匿人は特に内面的に縛られ続けていた家とは一度決別する。また桃瀬が何も言わずに「おかえり」と受け入れてくれたことで、匿人の中で初めて桃瀬という帰る場所ができた。そして何より何でも一人で抱え込み何でも内に隠し続けてきた匿人が初めて人前で本当の自分を自分の意思でではなく隠し切れなくなったが、それすらも桃瀬は優しく受け止めてくれたことが匿人の内面に少し変化を与えた。自分を偽る生き方自体はもう染み付いてしまっており直せないが、その中でも自分のことを全て受け入れてくれる存在がいるという絶対的な安心感を心の奥に得ることができた。そしてそのような存在である桃瀬に異常なほどの執着を見せ始めるようになる。また匿人は桃瀬が自身を内面的な面で救い出してくれたと考え、ある種の崇拝のような感情を少しずつ抱き始める。
・匿人は家とは決別したと思っているが、逃げるような形で家を出たためまだどこかで着いてくるのではないかという不安は匿人自身常に抱えており、実際後に家のことに(というより父親に)巻き込まれることになる。
◎匿人が桃瀬に抱きしめられたまま眠ってしまったことでその日二人はそのまま抱き合ったまま眠り、翌朝予定通りに旅立った。旅立つときに、匿人に褒められてから伸ばし続けていた桃瀬の髪が、旅をするには邪魔だろうと感じていた匿人は、桃瀬への誕生日プレゼントとして赤いリボンを贈る。桃瀬は初めての物質的なプレゼントであるそれをこの上なく気に入り、以降毎日それを身につけるようになる。しかし桃瀬は手先が不器用で自分では結べないため代わりに毎日匿人が結んであげるようになった。桃瀬は匿人からのプレゼントであるこのリボンに拘ってボロボロになっても使い続けようとするため、これ以降匿人は桃瀬の誕生日には毎年赤いリボンを贈る習慣がついた(状況に応じて誕生日以外にもプレゼントしている)。また赤いリボンを選んだのは純粋に桃瀬の桃色の髪に似合うと思ったからであり、現在も“赤いリボンを贈る”ということ自体が習慣となっているためそこには特に他意はない。
◎旅は極力家の者に関わることのないようにしたいという匿人の願いでシンオウを離れて他地方を巡っていくことになった。他地方へはいつものサイトーさんのポケモンが連れていってくれた。また彼にとってサイトーさんは仮の居場所のような状態であったことと、既に匿人達に愛着を持ってくれていたこともあり、このときから主人を匿人に改め保護者のような形で彼も旅に同行することになった。
◎旅に出る時点で、桃瀬は元の臆病な性格から少しずつ脱してきている。生きていた環境のせいで抑圧されていたが本来好奇心が強い性格であり、外の世界から来た匿人の存在によりその抑圧から抜け出すことができてきているため普通の子供らしい性格になった。
また桃瀬は良くも悪くも周囲の影響を受けやすく、匿人につられて笑顔になることが多くなったり、相棒の蓮華の元気すぎる性格の影響で今の性格の土台となる明るい性格が形作られていったりした。しかしその蓮華の排他的な面の影響も少なからず受けてしまい、この頃から桃瀬の中で自分を受け入れてくれる人・受け入れてくれない人という境界を作ってしまうようになる。
この頃はまだその片鱗が見え始めたという程度だが、少しずつ身内とそれ以外との意識の差が大きくなってゆき、現在では身内以外への興味や関心を単なる好奇心というレベルでしか持たなくなっている。他者に対しては人間やポケモンという生物相手だとしても飽きる・飽きないという次元の話へと持ち込める程度には関心が薄れている。
あくまで桃瀬の一番は匿人であり桃瀬の世界の中心にいるのも匿人。仲間はその周囲にいる大事な人。それ以外はもう深い関心の及ばない範囲。
◎匿人と桃瀬はどちらも解放という形で互いを救い出している。匿人は家という自身を内面的に縛り付けていたものからの解放、桃瀬は自身を縛り付けていた環境からの解放。
桃瀬は周囲の人間からの扱いや態度といった目に見えるものに縛られていたため、旅に出てそれらの人間のいる環境から離れることで完全に解放されることができた。
一方匿人は血の繋がりという概念的なものに縛られており、一方的に逃げるだけでは縁を断ち切れていなかったため、この時点では一時的に家から解放された気にはなれたがまだ完全には家から逃れられていない。