拝啓神様
好きだったの。
誰にも縛られずに、何にも縛られずに生きてる強さが羨ましくて。
「杖を下ろせ」
わたしに杖を向けられたシリウスの顔が怖い。でも、それも当然か。わたしとあなたはもう「同じ側」ではない。正義感の強いあなたの憎む「わたしたち」だもの。ああ、わたし、どんな顔してるかしら。
「ごめんね、シリウス」
泣きそうな顔してるのかもしれない。やだ、ここで泣くなんて情けない。
足元に横たわったわたしの親友たちと、わけもわからずわたしをみている赤ん坊。その瞳がまっすぐすぎて、なんだかどうしようもない気分になって、自分が不甲斐なくなって、やっぱり泣きそうになる。
「お前が殺したんじゃないんだろう?!」
ピーターが秘密を漏らして、わたしはそのときヴォルデモートの隣にいた。アリスとフランクの子どもだって予言に合致するのに、ヴォルデモートはわたしの大事な人たちの子どもだって決めつけて、わたしはそれを止めなかった。
「殺したの、わたしよ」
直接手を下したのはわたしではなても、止めなかったのはわたしだ。申し訳ないけどアリスとフランクよりリリーとジェームズのほうがわたしにとって大事な存在なのだ。そこでわたしがヴォルデモートに進言していれば、未来は変わったのかもしれない。でも、
「ごめんね、シリウス」
堪えても堪えても、涙が滑り落ちる。だめだ、わたしはやっぱり弱い。
同じ純血で、でもグリフィンドールに入ったという珍しさからかわたしとシリウスはすぐに仲良くなった。そして彼と仲のいい悪戯仕掛け人たちと、わたしの同室だったリリーともすぐに仲良くなって、わたしのホグワーツでの思い出は殆ど彼らとのものだ。
そして、言葉にすることはなかったし、正式に付き合っていたわけではなかったけれど、わたしはシリウスが好きで、きっと彼もそうだった。
卒業後の進路を考えたとき、世界の情勢は変わっていた。誰も信用はできないような、薄暗い世界になっていて、わたしの親友たちは騎士団に入ったりオーラーになったり、やっぱり勇気のある選択をしていた。逆に言えば、大切な人を守るにはそうするしかなかったとも言える。
だけどわたしは違う道を選んだ。死喰い人となった。誰に強要されたわけでもない。自分の意思でだ。
「ごめんね」
リリー。
「ごめんね」
ジェームズ。
「ごめんね」
ハリー。
「ごめんね」
……シリウス。
ただひたすら謝罪を繰り返して泣くわたしはなんとも情けないと思う。シリウスの顔が見られない。彼は怒っている、わたしを憎んでいる。ピーターのおかげで彼はアズカバンに投獄されるだろう。
でも。
「お前…、」
なにか言いかけたシリウスを押しのけてわたしは外へ飛び出した。
後ろから追いかけてくる気配はない。
きっと嫌われた。呆れられた。憎まれた。もう二度と、あなたに気持ちを伝えられる日はこないのだろう。でも、
「ごめんね、シリウス」
アズカバンに投獄されれば、殺されることはない。
わたしにとってアリスとフランクよりリリーとジェームズが大切なように、リリーとジェームより、シリウスが、世界の誰よりも、わたしよりもシリウスが大切だから。
シリウスが騎士団に入ると聞いたとき、わたしも騎士団に入るか、闇祓いになるかと考えていた。生憎成績は悪くない。なろうと思えばなれる職ではあった。だけどわたしがその職についたとして、シリウスを守れるかなんて、死ぬときに一緒に居られるかなんて、そんなことわからないのだと気付いた。そして、それが恐ろしくなった。
愛してるなんて言ったことはない。でも、確かにそこには「何か」があった。
わたしが彼を守れる道は一つしかなかった。
そして卒業後すぐ、わたしの腕には闇の印が刻まれた。ただひたすら働いて、ヴォルデモートから信頼を得ることができた。ヴォルデモートの隣に女がいる、と噂になって、その女がわたしだと知ったとき、何回も親友たちから手紙がきた。だけれどわたしは一度も開かなかった。開いたら、きっと泣いてしまうから。きっと、戻りたいと、そばにいたいと思ってしまうから。
「ねえ」
そろそろ帰らなくちゃ、「我が君」が怒ってしまう。怒ると手がつけられないんだから、早く帰らなくちゃ。
「シリウス」
わたしはあなたに侮蔑されてもいい。あなたに憎まれて殺されたっていい。
ただ、あなたが生きてさえいてくれれば。
「あのね」
拝啓、神様。
ただひとつ、願いが叶うなら。
彼が生きてくれることを。彼が誰にも殺されずに、そして願わくば、彼の人生に幸せを。
「愛してたわ」
わたしの告白は誰にも聞かれることなく、夜空に溶けていった。
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