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自然の象徴と崇められる神獣と時を司る女神から生まれたとされる私は他の神とは違い自らの翼を持っていた。その話が本当なのかは自分でも知らない。父に会ったことはなく、母は何も教えてはくれなかったから。それでも、私は確かに良かったのだ。この翼があればどこへでも行けるから。

今日はどこへいこうか。悠悠自適に空で過ごすのも良いがたまには人間を見に行くのもいいのではないか。じゃあ、この真下の街に行ってみよう。そう決めて地上に向かう。この時の私は、それが運命の分かれ道とは露知らず笑っていた。地上で何をしようか。それだけを考えていた。

降り立てば急に騒がしくなった地上。……そういえば、自ら顔を見せる神はほぼいない。特例としてあの甘やかされ女神くらいしかいないのではないだろうか。まあ、あの子が降り立ったところで癇癪を起して帰っているみたいだが。しかしそんな女神より気になるのは、神々に作られ地上に下ろされた泥人形だ。ギルガメッシュとかいう奴をどうにかするために作られた泥人形。名前は……エルキドゥ?とか言ったかしら?とりあえず、あの泥人形が神に与えられた使命を遂行しなかったとしか聞いていないが、興味があった。折角地上に来たのだし、会いに行ってみるのも一興というやつか。泥人形に会うために、適当に人間を捕まえて聞きだせば、ジグラットでギルガメッシュといるらしい。ふーん?さてはあの泥人形、絆されたか?と思いつつ、エルキドゥを見に行く為に空を翔る。ジグラットに到着すればまた騒がしくなった。ええい、煩わしい!

「ここを破壊されたくなければ今すぐその口を閉じよ!」

私の声に喧騒はかき消えた。慌ただしく動き回る人混みの中から、ひとりの女が私に礼をする。騒がしく無礼な奴らと圧倒的に違い、信仰心が伝わってくる女であった。

「女神ハレク様、ようこそいらっしゃいました。私はウルクの祭祀長、シドゥリと申します。」

「ふむ。ではシドゥリ。今すぐエルキドゥとやらを連れてこい。」

「王ではなく、エルキドゥ様をですか……?」

「王などに興味はない。私が会いたいのは知性を得た泥人形だけだ。二度は言わぬぞ。」

私の言葉にシドゥリは奥へ戻っていった。彼女が言う王とは暴君と言われているギルガメッシュだろう。圧政なんぞ勝手にしておれ。地上の事など私には関係ない。

「やあ、キミがハレク?」

「……貴様がエルキドゥか?」

シドゥリが連れてきたのは鮮やかな緑の長髪と瞳を持つ性別を卓越した美しい人だった。ほう、とため息が漏れる。獣と聞いていたが、これはこれは……。

「あの泥人形がこんなにも美しかったとは……。知性を得て進化したか?」

「うーん、これは進化なのかな?人の真似をしただけさ。」

「なるほど?余程良い人間に出会ったとみる。なかなかに面白いではないか。気に入った。こちらに帰ってくる気はないか?私の眷属にしてやらん事もないぞ?」

美しいものは好きだと言えば、綺麗な微笑みが返って来た。うむ、ますます好みだ。欲しいものをやろう、そう畳みかけるが、奴の首は横に動く。



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