決意の朝に


俺は死んだ。■■■という男は死んだはずだった。名前も思い出せないほど摩耗した記憶ではあるが、確かに死んだはずだった。

そんな俺が今世で与えられた名はセリニ。ギリシャ語で月を意味する単語であったが生憎と出身地は覚えていない。気がついたら前世の記憶を持って、姉に手をひかれていた。

そんな俺らを拾ったのは裏社会では有名な組織。コードネームが酒の名前で統一された、あの組織だ。まさか、自分が二次元に迷い込むなんてと最初は思ったが、姉さんの温もりも、俺が追い詰めた奴らの命も、初めて持った銃の重さも、すべてが本物だった。ここはもう2次元ではない。本物の世界なのだと思い知らされた。

初めての大仕事を終えた時、カシャッサというコードネームが与えられた。姉はキュラソー。その時に俺はやっと気がついた――自分の姉が将来死ぬ運命にある事を。
それ以降は何かに取り憑かれたように必死にペンを握った。思い出せ、思い出せ、思い出せ……!姉さんが死んだ理由はなんだ。姉さんは、姉さんは、姉さんは!!

「、」

――東都水族館。
ぱっと浮かんだ言葉に息を呑む。……そうだ、東都水族館が併設されたアミューズメントパーク。そこからは記憶を思い出すのは簡単だった。主人公が止めようとしても止められなかった観覧車を止めるために、姉さんは…、

「……把握しないことには、始まらないか。」

東都水族館付近の地理を把握しないことには計画も立てられない。姉さんがどこから重機を持ってきたのか。観覧車が転がる方角はどちらなのか。入口がどこにあるのか。そうだ。見て回らなければわからない事も沢山あるだろう。
姉さんの運命の日はまだ遠い。ならば今から出来ることをする。俺の支えであった唯一の家族。亡くしてなるものか。俺は、自分の命に変えてでも姉さんを救う。それが、俺に出来る最大の恩返しだから。


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