一回目の話


そんなこんなで東都水族館に意を決して立ち寄ったもののリニューアル前ということもあり本当にこの内装で計画を立てていいものかカシャッサは悩んでいた。
計画は無いよりはましだろう。しかし、本来のものからかけ離れていたとしたら…?
そんな事を悶々と考えながら水槽を見て歩く。

仮初の海を泳ぐ魚は何を思うのか。カシャッサには想像がつかなかった。自由のない世界に閉じ込められて、見物にされる。……まるで俺だな、と自虐的な笑いが起きそうだった。
リニューアル前のココに来たことは焦りすぎだったなと心を落ち着かせ元来た道を帰ろうとしたその時――

「はーい、みなさん、こんにちは!東都水族館へようこそ!」

――グラリと脳が揺さぶられた。
この先は何があったのか。急いで確認すれば"ペンギンエリア"。パンフレットに書いてあるショーの時間だった。人混みに紛れるようにして見に行けば、大人から子供まで集まるそこにはペンギンたちと飼育員が立っていた。

「私は、飼育員の藤間です。今日は我が水族館で過ごしている、4種類のペンギンたちについてお話しますね!!」

自分の脳を揺らしたのは、藤間と自己紹介をした女性の声だとカシャッサは気がついた。

「(俺はあの瞬間何を仕込まれた?特殊な装置でも使っているのか?)」

ありえない自分の異変に戸惑うが、藤間はカシャッサがこの場にいるのも知らないだろ。彼女が愛情深く目を向けているのはペンギンのみ。殺意も悪意もない。楽しそうな彼女にカシャッサが思わず目を細めてしまったのは眩しかったのか、羨ましかったのか。カシャッサのみぞ知る。


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