僕には現実がお似合いだった。


自分は何度ここに足を運べば気が済むのだろうかとカシャッサは自分に呆れていた。来園回数は両手の指の数をとうに越え、もはや数えるのを諦めている。

リニューアル前の古い水族館。古びた記憶の奥底にある華やかなテーマパークとは程遠い現状になんの意味がある?
そんな自問自答を繰り返したところで答えは出ない。キュラソーにも思い詰めるのは良くないと言われているのだから自分が重症だと認めざるを得なかった。
今のところは仕事に支障はない。しかし、支障が出るのは時間の問題かもしれない。悩みに悩んだカシャッサがフラリと足を運ぶ先はもちろん今日も東都水族館だった。

「はーい、みなさん、こんにちは!東都水族館へようこそ!
私は、飼育員の藤間です。今日は我が水族館で過ごしている、4種類のペンギンたちについてお話しますね!!」

この声も、この台詞も、聞くのは何回目だろうか。きっと説明も含め1字1句間違えずに言える気がするなとカシャッサは心の中で独り言ちる。

今日も楽しそうにペンギンの話をする飼育員。
淡い金髪を器用にまとめ、青緑色の襟の白セーラー服を纏う彼女は、藤間鈴というらしい。職業は大学生。年齢は21歳。ちなみに、ここまで簡単に個人情報を盗めるセキュリティを心配してしまったのはただの余談である。
自分が水族館を訪れた日は必ず藤間からショーの合間も自分に視線が向けられているのは知っていたが、知らぬふりをしなければいけないと固く心に誓っていた。

自分は日陰の人間で、彼女は日向の人間だ。
本来ならば出会うはずのない、真逆の世界に住んでいる。
それが何の因果か出会ってしまい、きっとカシャッサは日向の眩しさに惹かれてしまった。自分はもう日を浴びることはないと、諦めていたはずなのに。



夢を見たいと思っていた。
僕には現実がお似合いだった。

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