「ふざけないで!!こんな、……こんな事って、」
「杏くん、これは君と中也への忠告でもあるんだよ。」
「忠告……?」
「そう。今の関係を続けていればいずれ君たちが互いに情報を流していないかという疑いが武装探偵社でもポートマフィアでもかけられる可能性は高い。それに、どちらかに恨みがある者が君たちを……特に杏くんを狙う可能性が大いにある。」

今回のようにね、と太宰は肩を竦める。その後直ぐに主犯は私なのだけれどと笑ってみせる太宰に今度は中也が殴り掛かった。しかし太宰は予想していたのか首だけを動かしてかわして見せた。

「手前に言われなくたって分かってんだよ!」
「中也はそうかもしれないけど杏くんはそうじゃなかったでしょ?だから自殺しようとした。」

 自殺。その言葉に杏はドキリとした。あの時は無我夢中で何も思わなかったが、今は違う。死はとても恐ろしい。どうしてそんなことが出来たのか自分のことなのに理解ができなかった。そして自分の求めている立場がどれだけ危ういのかを理解してしまった。

「怖いかい?なら、関係を続けるべきではない。……中也と別れるなら今のうちだよ?」
「わ、私は!……私は、それでも別れたくない、です。……でも、中也さんの迷惑になるのであれば、別れた方が、いいと、思います。」

 それに中也だけではなく探偵社にも迷惑をかけてしまうだろう。ならば自分の想いなど捨て置いてくれればいい。そうやって生きてきたのだ。今回だって、きっとうまくやれる。
 泣きながら唇をかみしめ俯いた杏に見かねた中也は大きくため息をついた。

「はぁ……、手前はもう少し我が儘になったほうがいい。それと俺をもっと頼れよ。」
「中也さん……、」
「俺は手前の事を迷惑なんて思ったことはねぇし、手前を守れないほど軟弱でもねえつもりだ。……それとも、俺は頼りねぇか?」
「そんなことない!……でも、」

 自分の存在が彼にとって足手纏いになるのを杏は望んでいなかった。けれども、今回の件で自分の存在が彼にとって不利益であると杏は身をもって知ってしまった。だからこそもう一歩が踏み出せない。

「……無理に引き止めようとして悪かったな。手前の好きにしやがれ。」

 傷ついた表情で中也は帽子のつばを下げ踵を返す。黒いコートが動きに合わせて靡いた。

『本当にそれでいいの?』
『彼と二度と会えないかもしれないのよ?』

 頭の中をグルグルと言葉が巡る。離れて行く彼の背中に手を伸ばすのは何度目だろうか。



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