心中





「死ぬときゃあ道連れだぜ。……ぼっちは寂しいからな。」

 補修の時に太宰くんが言っていた言葉が脳裏にこびり付いて離れない。道連れ――つまりは、心中。どうしてそこまでして死にたいのか。向こうの太宰さんも気がついたらいろんな方法で自殺を試しているし、心中がいいと言っていた気がする。
 似ても似つかないと思っていたけれど、根本にある心中願望は同じ。それが彼を太宰治として成り立たせているのかもしれない。

「私と心中しませんか、ねぇ……。」

 向こうの私も言われたことがあるが、デートに誘う感覚で言うものだから咄嗟に否定出来なかったのを覚えている。けれども、あちらの太宰さんは本気でもそうは見えないから流しやすい。でも、こちらの太宰さんの"お誘い"は本当に誘われているのがタチが悪い。私でいいならと頷いてしまいそうになる。

「やあ、こんな所でどうしたんだい?」
「あー、芥川先生。……そうですね、心中について考えていました。」
「心中?……ああ、太宰くんか。」
「ええ、まあ。」

 言葉を濁した私に芥川先生も流石の苦笑い。喪失した彼の変貌っぷりに彼ももしかしたら思うことがあるのかもしれない。

「あまり気にすることはないよ。彼はいつもだし。」
「はい。間違って頷かないようにします。」
「うん、その方が懸命だね。」

 さて、次の潜書はどこかなと芥川先生は何事も無かったかのように話題を変えたため私の思考は作戦会議に移ったのだった。



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