秘め事は秘めてこそ



「今日のご飯はカレーにします!」
「だったらCoCo壱でいいじゃん。」
「死ね。」
「酷い!」

 そんな会話をしながらキヨが持っているカゴに容赦なく食材を入れていく。じゃがいも、にんじん、玉ねぎ。それから色々。

「ちょっとぉ!お前らふざけんなってぇ!」
「キヨくんの奢りだから好きなだけ買うわ。」
「おい、キヨ。カート忘れてんぞ。カゴ重くなるんだからいるだろ!」
「めちゃめちゃ買わせる気だなぁ、おい!」

 賑やかな声とガサガサと容赦なくカゴに商品を詰める音が背後から聞こえ思わず笑ってしまうが買う買わない論争を繰り広げる年上の男達にかける言葉は残念ながら見つからなかった。

「キヨ。勝手に野菜戻さないで。」
「なんで!?」
「あ、ガッチさん。すみません、キヨが戻したやつとってもらっていいですか?」
「これ?」
「ありがとうございます。」

 無視!?というキヨの声は聞こえない。私はさっさと帰ってご飯が食べたいんだ。あとどうせ君たちは酒飲み始めるんだろ?知っているぞ。私は邪魔になりそうだから勝手に寝るつもりだけど、と思いながらどんどん場所を移動する。するとお酒コーナーに近くなったところで酒好きのおふたりがソワソワしだしたのでゴーサインをだせば二人とも嬉しそうな顔をした。

「じゃあ、天赦さんにオッケー貰ったから俺たちは酒でも選んでくるわ。」
「そういえば、天赦ちゃん、何飲める?」
「え"っ!?」
「何その声!」

 まさか私も頭数に入っている事に変な声を出せば牛沢さんに爆笑された。恥ずかしい。死にそう。そう唸りたいのを我慢して酎ハイをお願いし、酒に詳しくないのでお二人のおすすめで、と一言添えてお酒コーナーに向かう二人を見送る。そして二人の背中が遠くなった頃、隣から爆弾を落とされた。

「なあ、天赦さん。」
「はい?」
「ぶっちゃけ、うっしーのこと好きでしょ?」
「は、ア!?」
「うるさ!変な声出さんといてよ!」
「いやいやいや!待ってよ!元はと言えばレトさんが変なこと言うからじゃん!?」

 なんで知っているのと正直に口に出さなかっただけましだろう。まさかと思いキヨへと視線を向ければ必死に首を横に振りその様子にレトさんは「キヨくんも知ってるんやね」と確信を得たらしい。

「言っておきますけど、牛沢さんとは初対面ですよ。」
「天赦さん、一目惚れって言葉知ってる?」
「馬鹿にしてます!?」
「レトさん、そうじゃねえから安心しろよ。」

 そのキヨの言葉に助け舟かと期待すれば一瞬にしてその舟は沈没した。

「前から天赦はうっしーの事好きだよ!!」
「清川ァァァア!!」
「やっぱりそうなんや!いやぁ、可愛らしいなぁ!」
「ちょっ、聞かれたらどうするの!しーっ!」

 この距離で聞こえるわけないだろうとキヨが言い、レトさんも大丈夫だと呑気に笑っている。いや、レトさんはまだ大丈夫かもだけど声がでかいキヨが一番心配だっつーの!

「二人が帰ってくるまでその話聞いていい?」
「ダメです。しません。」
「そっかー。じゃあ、糺ちゃんって呼んでいい?」
「それは動画外でなら構いませんけど……私、本名教えましたっけ?」
「ううん、キヨくんから聞いた。」
「レトさんそれ言わないって約束したじゃん!」

 裏切りのキヨ、まさかのレトさんに裏切られるの巻。そうか。わかった。じゃあもうこれみんな知っているパターンだな?そうだろ?な?
「わ、わざとじゃないよ?ついポロッと出ちゃって、」
「うん、うん。キヨの事はわかっているつもりよ、大丈夫。普段は糺呼びだもんね?」
「じゃあ、」
「だがしかし、許すとは言ってない。」
「そんなぁ!」
 本名がバレたことはこの際どうでも良くなっている。そんなことよりも全身組に私が死ぬ気で隠したかった牛沢さんへの想いがバレている方がしんどい。無理。解釈違いすぎる。どうしよう。

「大丈夫やで、天赦ちゃん。多分ガッチさんも気付いとるよ!」
「全然大丈夫じゃなかった!!」
「しらねぇの本人だけだろ。」

 本人に知られたら私生きていけない。実況者やめる。無理。そうボソボソと呟いていればピトッと冷たい何かが首筋に当てられる。思わず変な声をあげえれば、背後から低い笑い声が聞こえ犯人は振り返らなくても予想がついた。

「うーしーざーわーさーん?」
「はあい。……ぶふっ、」
「もう!いつまで笑ってるんですか!」

 面白すぎるといつまでも笑っている牛沢さんに胸がキュンキュンと高鳴る。こういう普段の牛沢さんが見られるならこういうのも悪くはない。でも忘れてはいけない。彼は既婚者だ。だから、こうやって構ってくれるのも実況者仲間だから。
 本人以外は私の気持ちを知っている。その言葉を噛み締めてバレないように気をつけないようにしなければと気を引き締めた。

「お酒も持ってきたし、キヨ、会計行くよ!」
「はぁぁあ……、いくらになるんだろう、これ。」
「……足りなかったら言ってね?」
「糺のそういう所、ほんと好き……。」
「そういうのいらないから早く帰ろう。」

 万が一ファンに見つかって誤解されたら恐ろしいことを言うキヨを無視して会計へと向かう。後ろではキヨ慰め大会が行われていたがそれすら無視をした。

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