その恋は実りますか



 あのあと案の定キヨの家で酒盛りが始まり実況を撮る話が出てくることはなく、酒を飲まなかったレトさんと一緒に酔い潰れ床で寝始めた三人に毛布やタオルケットをキヨの部屋から勝手に借りてかけてあげる。

「いつもこうなんですか?」
「いや、いつもならもう少し飲んでる気がするけど……糺ちゃんが居ったからテンションがハイになって酔い回るの早くなったんじゃないかなぁ。」
「まさか……。」
「みんな糺ちゃんに会うの楽しみにしとったんよ?」

 もちろん俺も。そう言って微笑むレトさんに少し照れ臭くなる。私も会いたかったですと素直に言えばレトさんはキョトンと不思議そうな顔をした。

「俺らに会いたくないんじゃなかったの?」
「四人の楽しそうな所に割り込みたくなくて動画には出たくないって意味で会わないって言っていたんです。」
「あー、なるほどね。そりゃキヨくんがようわからん顔するわ。」
「ふふふ、やっぱり分かってなかったんですね。」

 言わなくて正解だったと笑えばレトさんはしてやられたと項垂れる。会いたくないの言葉の裏に一人だったら会っても良かったと感じ取れたのだろう。現にキヨとはプライベートでも会っていたのだから。

「意外と策士やな、糺ちゃん。」
「それほどでも〜!」
「いやぁ、すっかり騙されたわ!普通に悔しい。」
「でも結局キヨのせいでこうなっているので意味ないですけどね。」
「確かに。」

 泥酔した挙句、好きな人を自らバラし頑なに断っていたTOP4との動画に了承すると言う今振り返っても馬鹿でしかない状況は本当に頭を抱える案件でしかない。しかしここまで来ればもう開き直るしかなくレトさんに「これを機に一緒に動画撮りましょうね」と言うしかなく、それでもこの状況に喜んでいる自分がいるのも事実であった。

「糺ちゃんの予定が空いている日さえ教えてもらえれば合わせるよ。」
「神かな?あとで連絡しますね。」
「崇め讃えてええんやで?」
「レトルト教は何のご利益があるの?」
「うっしーと良い感じにしたる!」

 その言葉に飲んでいた酒が変な所に入り込んで盛大に咽せた。いやいやいやいや!良い感じって何!?

「牛沢さんは既婚者でしょう!?」
「え?」
「ご結婚されている方には何もしませんよ!」
「うん?糺ちゃん、勘違いしとるよ。」

 ――うっしーは独身やで。

「え……、独身?」

 レトさんの言葉に脳がフリーズする。けれども何かの動画で指輪が映っていると言う話があったはずだ。それに、ネットでも結婚しているって書いているサイトも多い。本人から発信はないがファンの間では牛沢さんは既婚者と言われているのに、

「うっしーが否定しても消えへんから誤解されることが多いけど、結婚してへんよ。本人からそう聞いとるし。」
「そ、そんな、都合のいい事、」
「あるんだなぁ、これが!だから糺ちゃんが遠慮することは何もないよ。」

 だから俺も協力してあげるとレトさんは言うが、今日出会った女に大事なお友達を任せようとして大丈夫なんだろうかと勝手に不安になる。人が良すぎないか?

「そんな事言って、私が悪い女だったらどうするんですか?本当は牛沢さんの富と名声目当てです!みたいな。」
「それを思っている人は自分から言わないし、今日一緒にいてめちゃめちゃ良い人だってことはよーく分かったしね。それにそう思っているならキヨくんの時点で実行してそうじゃん。」

 まあ、確かに、そうかもと思いながら酒を飲み干しその場に寝転びため息を吐く。今日一日で色んな事が多すぎた。

「ねえ、レトさん。もし、もしもだよ。牛沢さんにフラれたらどうしよう。」
「キヨくんがお嫁にもらってくれると思うから大丈夫っしょ。」
「そこは自分じゃないんだね!」
「俺は糺ちゃんのお兄ちゃんだからなぁ。」
「これ、遠回しにレトさんにフラれてない?」

 そう言えばレトさんが笑い出す。まあ、別に気にしないんだけど、好きと言う前にフラれるとは貴重な経験をしたと言う事で片付けよう。

「うっしーも糺ちゃんのこと好きだから大丈夫だよ、きっと。」
「うわ、その発言は無責任すぎて無理です。信じられない!」
「ま、頑張りや。俺は糺ちゃんを応援しとるからね!」
「……うん、ありがとう。」

 今日ここに集まらなければ私は一生この恋を諦めて終わらせていたのだろう。けれど、今日、その恋は生き延びた。

「(想ってもいいんだなぁ。)」

 信じ難い事実にほっと胸を撫で下ろし、すやすやと気持ち良さそうに眠る彼を見つめて、私は目を閉じた。


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