気まずい時期



 牛沢さんとの初コラボ実況を終えた時からすでに季節は移り、寒さはすっかり消え暖かな陽気を通り越した熱気が不快指数をあげている。動画の方は色々と話題を生み出し、ありがたいことに続編を望む声も多く牛沢さんと連絡を取り合って日程を調整しているところではある……が、実は牛沢さんがあまり乗り気ではないのが現状だ。ホラーが苦手なのになぜかホラーをチョイスしてしまったからだろうか。でもそれは牛沢さんが選んだゲームなので私はなぜそれを選んだのかと言うしかないのだか。

「それはきっとね、糺ちゃんに怖がって欲しかったんだと思うよ。」
「牛沢さんより怖がるとか無理ゲーすぎません?」
「まぁ、うっしーはビビリだからねぇ。」

 のほほんと私の話を聞いているガッチさんはホラーゲーム専門の実況者と言っても過言ではないだろう。そんな彼に相談したところで解決はしないような気もするが誰かに話を聞いてもらいたかっただけなので良しとすると思っていたら予想外の答えを頂いてしまった。

「いやぁ、でもあの動画の糺ちゃんかっこよかったもんね。何だっけ?『牛沢さんは私が守る』だっけ?」
「いや、あれは言いすぎたかなって思っているんですけど、本心なんで……まあ……はい。」

 パンッとゾンビの頭が弾け飛び床に倒れ込む。クリティカル判定で一撃死したゾンビを見てあの時もこんな状況だったなと思い出す。
 なぜか初コラボ実況でバイオハザードを選んだ牛沢さんに初見でグダるのは嫌だと断ったはずだった。断ったはずなんだけど……。

「糺ちゃんどんどん上手になるねぇ。」
「動画外なのに練習させてくれるガッチさんのおかげですよ!グダるの嫌なので予習させてくれてありがたいです。」
「うっしーが渋っている間にソロで撮り始めそうな勢いだもんね。」
「はい。初めてやりますけど、面白いで、ひ……っ!」

 床で死んでいたはずのゾンビが急に動き出すのは流石に怖いしダメージを喰らうので嫌いだ。でもその様子が牛沢さんの時に現れないのは自分よりも怖がっている人がいるからだろう。一方ガッチさんは「気をつけるんだよ〜」とクリアしているからという理由とは別にほぼ驚くことがないから、私は普通に怖いし驚いてしまう。

「はー、普通に怖い。ゾンビ怖いから急に動かないでほしい。無理。死んでほしい。」
「あはは、それが素なのかな?」
「いや、語弊生みそうなこと言わないでくださいよ!あれは牛沢さんが怖がりすぎて逆に余裕ができているだけです。」
「……俺、うっしーが録画渋る理由、わかったかも。」
「え、」
「まあ、俺の予想が正しければ、糺ちゃんがやりたいって言い続ければ多分続きできるよ。うっしーの気持ちの問題だろうし。」
「はあ……?」

 私にはさっぱり意味がわからないけどガッチさんは分かったらしい。男同士のシンパシーか?何?詳しく教えてほしい。

「……まあ、いいや。やりたくないなら別のにする。ソフト買えば個人で実況も撮れるし。牛沢さんのやりたくないことさせたくない。……嫌われる方が、嫌、だから……。」

 保身と言われればそれまで。でもそうじゃないと牛沢さんとの距離が離れてしまう。それだけは嫌だ。好きだからとかそういう感情は抜きに、人に迷惑はかけたくない。

「よし、糺ちゃん。ここはおじさんがどうにかしてあげよう!」
「ええ?どうにかって、どうやって?」
「まあ、任せておいて。悪いようにはしないからさ。ね?」
「ガッチさんがご迷惑に思ってないのであれば、それはいいですけど、あ!」

 気を取られているうちに画面の中のクレアがお亡くなりになっていて静かにホーム画面へと戻る。どこでセーブしてたんだっけなあと考えつつ本日の終了時刻間際のため大人しくゲームの電源を落としコントローラーをガッチさんへと返す。

「今度は茜ちゃんがいる時にきてもいいですか?会ってみたいです。」
「別にいいけど、それよりも先にうっしーと動画撮ってきてね。」
「うっ……、」

 正直連絡するのも気まずいのだが、まあ、このままでは仕方がないし、ガッチさんが間に入ってくれるらしいので進展があることを祈ろう。とりあえず無理はしないで欲しいと連絡は入れて様子を見ることにした。


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