伏線はすぐそこに



 糺が動画を投稿しなくなって一週間が過ぎた。ちょいちょい来ていた連絡も来なくなり、大丈夫かと送ったメッセージにも既読の文字はつかない。

「なあ、お前ら糺と連絡取れてる?一週間も音沙汰ないんだけど生きてんのかな……?」
「え?動画の件なら、仕事に殺されそうって言ってたから当分あげられないらしいよ?」
「俺には動画の感想偶にくれるけど……。」
「もしかしてうっしー、糺ちゃんと連絡取れてないの?」

 その言葉に俺はショックをうける。なんで俺だけ無視されているんだろう。何かしでかしただろうかと考えても何も思い浮かばない。

「この間言っていたことが現実になっちゃった感じかぁ……。残念だねぇ。」
「え?でも『落ち着いたらまた行こうね』って糺が言ってたからそれはないんじゃね?」
「えー?もうどう言うこと?」

 ただ単に忙しくて俺の通知だけ見逃しているだけなのだろうか。モヤモヤとした気持ちを抱えながら実況を撮り始めた。

    ***

『牛沢さんに、フラれました。』

 その文字を眺めレトルトは頭を悩ませる。先ほど撮り終わった動画中に牛沢に問いただせばよかったと少しだけ後悔し、スマホの画面を暗転させベッドへ放り投げた。
 糺から連絡があったのは実写動画を撮り終えた次の日の朝で、一緒にいたキヨの様子を見る限りその事実を知るのはレトルトのみで困惑したのを思い出す。詳しい話は聞いてはいないが通話中の牛沢の反応からすれば本人ももしかするとその自覚がないのかもしれない。しかしそれも変な話でますます謎は深まった。

「あー、あかん。考えたところで何もわからんわ!」

 糺の一方的な勘違い、と言う線は大いにあり、本人になぜそう思ったのか経緯を聞かなければこの話は間違いなく解決しないだろう。ただし、今の彼女にその話をして彼女を傷つけたとあれば、彼女がどうなるかはわからない。最悪、実況を引退すると言う話もないわけではないだろう。そうなればきっと牛沢だけでなくキヨやガッチマンにもなぜ糺がそうなったかを話さなければならないだろう。

「何事もなければ一番ええんやけど……。」

 色々と面倒ごとは起こしたくないのがレトルトの本音である。しかしそうもいかないのが現状で、うんうんと唸りながらパソコンの電源を落としベッドへ向かう。先ほど放り投げたスマホを拾って「うっしーが連絡ないって心配しとったよ」と糺に連絡を入れて寝る態勢をとった。
 既に空は白んでいて、時計を見れば午前四時を迎えようとしている。

「起きたら返事来とるかなぁ……。」

 いっそのことキヨくんにも相談しようかなと考えながらレトルトは天赦のツイッターを覗き稼働していてないなことを確認する。一番上の呟きは一週間前の日付でコメントには心配する声が今もなお書き込まれていた。少しだけスクロールすればすぐ下あたりにこの間遊んだ時のぬいぐるみの写真が投稿されていて「楽しかったなあ」とレトルトの口から溢れる。

「……ん?」

 動画以外のことも呟いているのは前から知っていたが、あるツイートを見つけてレトルトの指が止まった。普段なら気にしないような女の子がしそうな話題だが、思わずURLをタップしてサイトの内容を読んでからもう一度ツイートを読む。

『「星が綺麗ですね」とは、最初に書いたように好きな人に愛を囁く言葉です。』

『今日、同期と盛り上がった話題です。月が綺麗ですねも素敵ですが星が綺麗ですねも素敵な言葉ですね。言われてみたいものです……笑』

「こんなん呟いとったんか……。」

 流石女の子というのは些か偏見ではあるがロマンチックなことに憧れがあるのだろう。果たしてこれを真剣に読んだ人が何人いるのかわからないがコメ欄には「素敵ですね」とか「言われても意味わからなかったら返事できない……笑」など女性からのコメントが圧倒的に多かった。恐らく自分を含めたいつもの四人は誰一人読んでいないだろうと考えて、ふと気づく。

「まさか、これをうっしーに言ったんか?」

 あり得ない話ではない。それならふったはずの牛沢が無自覚であるのにも頷ける。なぜなら、糺に告白されたとも認識していないのだから。
 その答えに辿り着いたレトルトはいてもたってもいられず牛沢に電話をかける。多分寝ていないと思う。いや、寝ていても起こす。そう決めて鳴らし続ければ不機嫌そうな声で牛沢は電話にでた。

「うっしー、文句は後で聞くからちょっと教えて。この前遊びに行った時、糺ちゃんからなんか言われなかった?」
「はあ?なんかって何よ?」
「なんでもいいから!俺らと別れた後どうしたん?」
「どう、って……普通に途中まで一緒に帰ったけど、」
「それだけ?」
「それだけって……、あ、でも途中で変なこと言ってたな、そういえば。」
「どんな!?」
「え、ええと、まだ夕方だったのに急に『星が綺麗ですね』って言っていて、何の話かわかんなくて、急にどうしたの?って聞いたけどなんでもないって言われたわ。」
「ああ……、」

 やっぱり、とレトルトは一人で納得する。説明するべきか、どうするか。糺に聞く前に自分の口から説明するのも違うような気がしてレトルトは口を閉じる。

「え?何?やっぱなんかの暗号なわけ?」
「あのな、うっしー。今すぐその言葉調べたほうがええで。後、糺ちゃんのツイッター見てくれ、ほんま。頼むから……。」
「ええ?」
「はあ……こんな時間にごめんな?用件それだけだから切るわ。」

 おやすみと一方的に告げてレトルトは電話を切って再び寝る体制へと戻る。まさかの事態にレトルトは天井を見上げてため息をついた。


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