裏話



「うっしーさあ、女の子悲しませちゃダメでしょ?」
「はあ?」
「だーかーらー、糺ちゃんの事悲しませちゃダメでしょって言ってるの。」

 話があるからと珍しくガッチさんから通話があり、開口一番にそう言われる。糺という単語に少しだけ動揺したが多分ガッチさんにはバレていないだろう。

「糺ちゃん、うっしーが次の動画中々撮りたがらないから一人で撮りなおそうかなって言ってたからね?」
「え、なにそれ⁉聞いてないんだけど⁉」
「うっしーがやるの嫌なら無理強いもしないし、別のゲームやるとも言ってたからね?」
「いや、待ってよ。なんでガッチさんがその情報知ってんの?」

 ポンポンと飛び出る新情報に頭を痛めれば、ガッチさんは「今日一緒に遊んだから」と悪そびれもなく新情報を突っ込んできた。いやいや、待てよ。なにその情報。

「糺ちゃんが怖がっているところ、見たいよね。わかる。わかるけど失敗だったね?」
「怖がるどころかむしろ笑ってたからな?」
「思っていたよりもグロ耐性もあるから尚更だよねぇ。すごく頼もしいけど!」
「まあ、そうだけど……、俺の立場がねえよ。」

 ホラーは苦手だと聞いていた割にそんなことも無く、操作が難しいと騒ぐだけで悲鳴なんてものはない。むしろ俺の悲鳴の方が多く糺は終始笑っていた。初めてやるゲームだし、やりたいって言っていたゲームだから尚更楽しかったのだろう。

「あー、まじで続き……どうしよう……。」
「撮りたくないわけではないんでしょ?糺ちゃん、の反応に戸惑っているだけで。」
「ちょっとはかっこいいところ見せられると思ったのになあ。失敗した。」
「グダグダしてうっしーの編集が大変になるのは嫌だからって一人でコツコツ練習しているみたいだし早めに撮るか撮らないか決めてあげなよ?」

 それだけ言ってガッチさんは夕飯だからと通話を終了させ、部屋は静かになった。
 動画の続きは多くの視聴者にも望まれていて、続きの録画に踏み切れないのは俺の気持ちの問題だけなのだろう。糺は俺が打算的な考えで手を出して失敗して落ち込んでいるとは思っておらず、純粋に心配して別の企画でもいいと言ってくれている。でも、それじゃダメだろう。

「あー、情けねえな、俺。しっかりしろよ。」

 ビビりな俺も俺だと、糺はちゃんと理解してくれている。怖がっている俺に引くことも無く「動画見てるから知ってますよ」なんて言って笑ってくれるあいつには一生適う気がしない。そんな俺を受け入れてくれているのに、彼女の気持ちを蔑ろにする事は出来なかった。

「……あ、もしもし。糺、今時間大丈夫?次の録画についてちょっと相談があるんだけど――。」


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