裏話



「なんていうかさ。」
「はい。」
「ここまで拒否られてると悲しくなってこない?」
「レトルトってば何言ってんの。……悲しいに決まってんじゃん……!」
「せやろ⁉」

 居酒屋の半個室の一角に身を潜めている男が三人。隣の区画にはキヨと糺が居て、その話の内容に聞き耳を立てている。
 会ってもいいと糺から許可が降りればそのまま隣へ突撃しょうと思っていたがなかなか許可が降りず結局三人の飲み会と化した現場に誰かのため息だけが聞こえた。

「んー、キヨと会うのと俺たちに会うのは別って事は、そういうことなのかな?」
「でもキヨくんは否定しとったしなあ。」
「でもキヨが否定しているだけで、天赦さんはどうなのって話じゃない?」
「天赦さんもキヨを異性としては見られないってはっきり言っているらしいな。キヨ本人に。」
「えー?じゃあなんでなん?……複数人で集まるのが怖い、とか?」
「まあ、女の子だしこっちにその気はなくても怖いのかもね?」

 そう言いながら飲み干したジョッキを端へよけてタブレットで新しい飲み物を選ぶガッチマンにレトルトが複雑そうな顔をする。「会う前から濡れ衣きせられとるやん」というなんとも言えないコメントが聞こえてきた気がするが牛沢は何も返すことなく枝豆へと手を伸ばした。

「まあ、諦めずキヨに頼むしかないねえ。」
「何回か聞いているうちに天赦さんが折れるでしょ。」
「むしろウザがられるって事はうっしーのなかではないの?」
「ないね。」

 もぐもぐと頬張っていた枝豆をビールで流し込んで牛沢は即答しその様子にレトルトとガッチマンは目を瞬かせる。天赦のTop4好きは視聴者の間でも有名で時折自身のツイッターでも一視聴者として宣伝しているくらいだ。ほら、と言って牛沢は二人にスマホを見せる。

「……ほんま俺らのこと好きやね?」
「ちゃんと個人の実況も見てくれてるんだ。ありがたいねぇ。」
「俺なんか課金されてるからね。そんな子が言われて嫌がると思う?思わないっしょ。」
「いや、それはいくらなんでも調子乗りすぎやろ!」

 あっけらかんと言い切った牛沢にレトルトはゲラゲラと腹を抱えて笑いし、ガッチマンは「強気だねえ」と囃し立てた。しかし隣から聞こえてきた会話では確かに天赦の口から嫌いなわけが無いという言葉が出ていた。だからそんな子が嫌がるとは思えない。

「まあ、同業者なんだしいずれ何かで会えるでしょ。」
「はー?余裕やなあ、うっしー。」
「まあ、ね。」

 隣の部屋に応援している人がいるという状況だけでも嬉しいとは口には出さず、誤魔化すように牛沢はビールを飲む。レトルトとガッチマンが別の話で盛り上がるなか、牛沢は静かにキヨたちの個室の会話に耳を傾けた。


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