束縛されたい



 糺は聞き分けのいい子だと思う。わがままも言わず、割となんでも受け入れる。でもそれがいい事だとは最近思えなくなっていた。

「だから俺に相談しようってわけ?」
「だって悔しいけどお前の方が糺の事知ってるからさ。」
「あー、まあね……。」

 そう言って困ったように頬を掻いたキヨを見て正直羨ましいと思う。キヨは糺にとって我儘を言える数少ない友人であり、俺よりも彼女との付き合いが長いのだから。

「糺と付き合ってるのは俺なのにお前の方がそれっぽくてほんと困ってんだけど。」
「そういうのは糺に直接言えよ。」
「言えたら苦労してねーよ、馬鹿野郎。」
「それもそうだなぁ……。」

 興味なさげにキヨはひたすら肉を焼いては食べている。相談にのってくれるお礼に奢ってやるとは言ったが全くのってくれない気配はなく頭を痛めてしまった。
 糺は俺の前では大人しいというか遠慮しているというか。思うことがあっても口には出さず笑っていて、それが寂しいというか。まあ、とりあえず、もっと俺を頼って欲しいというか。そうグダグダと酒を飲みつつ話せばキヨの手が止まった。

「うっしーはさ、束縛されるの嫌いでしょ?」
「え?あー、まあね。」
「糺はさ、それを気にしてるんだよ、多分。ああ見えてめちゃめちゃ重たい女だから。」
「……どこが?」

 思わず聞き返してしまうのは俺が糺にそんな気配を感じていなかったからだろう。ああいう聞き分けのいい子は彼氏がどこに行こうと何も言わずに行ってらっしゃいと見送って浮気されているタイプだ。いや、俺は絶対にしないけどぉ!絶対にしません!そんな事したらシャレにならん。
 そう言えばキヨは露骨に顔を顰めて箸を置いて俺を見る。

「今からうっしーには糺の特徴を教えるから大人しく聞いて。」
「うっす。」
「糺の特徴その1、人に嫌われたくないのでできるだけNOとは言わない八方美人。」
「はい。」
「糺の特徴その2、自己肯定感が低いので常に思考は否定的。特に恋愛面でよく見られる。」
「はい。」
「糺の特徴その3、嫉妬、束縛欲、我儘などの重たい感情が人一倍あるが見せると嫌われると思っているので絶対に表には出さない。」
「……つまり俺って信用されてない?」
「そうじゃなくて、好きな人の前ではいい子でいたいんだってさ、糺ちゃん。」
「オアッ!?」

 急に背後から聞こえた鼻声に変な声が出る。ビビらせんじゃねえとレトルトに言うがアイツは悪びれもなくキヨの隣に平然と座った。

「いやあ、遅れたわ。ごめん。……で、今どんな感じ?」
「うっしーが浮気するところかな。」
「うわっ……そんな奴だったとは……。」
「ちげーよ!ふざけんな!俺は一筋だわ!」
「でも物足りないんでしょ?束縛もないし。」
「…………まあ、ね?ちょっとくらいしてくれてもよくない?っては思ってるけど……。」

 これではまるで俺の方が彼女のようでちょっと笑ってしまう。束縛したい、されたいの問題ではないのだが我儘すら全くないという経験も初めてで手も足も出ないのは間違いない。

「糺ちゃんもそうだけど、うっしーもなんで本人に言わないの?」
「なんで、って……。そりゃあ、言って印象下がったら嫌じゃん?」
「それじゃあ、糺ちゃんがうっしーからそれを言われたら印象が下がるくらいしかうっしーを好きじゃないって事でいい?」

 レトルトの言葉にドキリと心臓が脈打って呼吸が浅くなる。そんなはずはないと思うのは俺だけだろうか。糺はわかりやすい。だから俺のことが好きだと黙っていても見ていればわかる。

「俺らじゃなくて、糺ちゃんと話せば?こんなところに居ないでさ。」
「ちなみにうっしーに朗報。糺は今自宅にいるぜ?」
「……呼んどいて悪いけど俺帰るわ!これで勘弁してくれ!」
「あざーっす!釣りは返さんぞ!」
「おう!持ってけ!」

 カバンから財布を取り出して金を机に置きコートを持って足早に店をでる。歩きながらスマホを取り出して糺へ電話をかけながら俺は駅へと向かった。


戻る


twilight
ALICE+